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しかし、一歩薄暗い道へ入っただけで来るんじゃなかったなと後悔した。
まさに地獄絵図。
地面に突っ伏す死屍累々。地面や壁、至る所に血飛沫のグラデーション。
割れた窓に頭から突っ込んで事切れているこの男は、間違いなく目標の一人で、それだけでこの惨劇を起こしたのが自分の相棒だと嫌でも分かってしまう。
その中で辛うじて息のある人間は、目標ではないから殺されなかったのだろうけれど、明らかに今後の生活に支障を来すような傷を負っていた。
これなら、ここで死んでしまった方が幸せなのかもしれない。僕がこの人ならきっとそう思うだろう。
でも、殺さない。
死ぬ運命でない人間は殺してはいけない。寧ろ、生かすのが僕のもう一つの仕事。
致命傷の人間に近づき、そっと傷口に手を添える。
力を注ぎ込むイメージで意識を手に集中させると、淡い光が倒れた男を包み込む。
切り傷から心臓病まで、全てを治す治癒の能力も僕ら死神の力だ。
死を統べる神の力でありながら、人を生かすことも出来るこの能力の矛盾点については、いくら考えたところで理解も納得も到底出来ない。考える必要もない話だけれど。
この力は致命傷でも癒し、完治させることが出来る。
けれど、完全ではない。
本体から切り離された部位を繋げたり、もう一度生やす事は出来ないし、潰れた瞳にもう一度景色を見せる事も出来ない。
出来るのはただ生命が存続する状態に戻すだけ。
だから、両腕のない彼はもう自分で死ぬことも出来ない。
それでも一つ救いがあるとすれば、この男の死亡年月日が明後日だという事だろう。
ニコラス・アーマード、年齢四十八、死亡年月日は二日後の正午。
残り僅かの人生は辛く苦しいものになるかもしれないけれど、どうか謳歌して欲しい。
目の前で気絶している男に合掌していると、すぐ傍に慣れた男の気配があった。
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