記録の彼方に夢を見る

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「今年も祖父を懐かしむのですか」 パソコンでの作業の手を止め、柔らかな物腰で同僚が尋ねて来る。 プラスチックとゴムと金属で作られたフレーム。 僕らは機械の人。 ほんの三百年前までは考えられもしなかった技術の確立により、人の一部は自らの有機物の体を無機物の体に変え、更に人工知能と融合した知性を持って生きていた。 壊滅的なまでの地球環境の悪化も有ったからだろう。 生物濃縮された毒物が、生物のピラミッドの頂点に君臨する人類を劇的なまでに蝕む環境から逃げたとも言える対策。 但し、全ての人が機械の体へと移行した訳ではない。 自分の肉体を捨てる行為への躊躇いと恐怖、半永久的に存在する事への戸惑い、そして宗教的でありアニミズム的な、ほぼ本能と言える精神性から来る畏れによって大半の人類は短くなった寿命を受け入れた。 八十歳平均の長寿も半分の四十歳にまで縮んでいながら、人類は余暇を楽しく過ごす術をとうに手に入れていたから、動き辛くなった体で余生を楽しむ事を望まなかったのかも知れない。
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