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……いや。それは僕の思い込みかもしれない。
ただ、蔓に僕の指が触れ、それで血が拭われただけだったのかもしれない……。
しかし、この時の僕にはどうしても、このスイカが旨そうに血を吸ったとしか思えなかったのである。
不意に恐ろしくなった僕は、急いでその蔓を根元からスパっと切り取った。
すると、切られた蔓の断面から、今吸った僕の赤い血が流れ出す……ようなことはもちろんなかった。
もちろん、そんなバカげたことはなかったが、この些細な出来事がそれまでに見聞きした奇妙な出来事を一つに繋げ、ある妄想を僕に抱かせる。
売っても売っても戻って来る不思議なスイカ……
それを買ったお客の家で起こるスイカ泥棒……
そのお客がかかった血の少なくなる奇妙な病……
その患者の首筋に残る何かが刺した傷……
そして、今僕の指先から血を吸い取ったこのスイカの尖った蔓……
もしかして、こいつは自分を買って行った客の家で夜な夜な伸ばした蔓を家人の首に刺し、あたかも吸血鬼のように血を吸っているのではないか?
そして、たっぷり血を吸って満足すると切って食べられてしまう前に、こっそりこの店に戻って来て次なる得物を狙っているのではないだろうか?
そう考えれば、すべて、辻褄は合う……。
その思いがけぬ結びつきに、僕はこの暑い真夏の最中だというのに、全身に鳥肌の立つ感覚を覚えた。
……いや、何を考えているんだ。そんなバカなことあるわけないじゃないか!
だが、僕はそこまで考えて、その妄想を払い落すかのように激しく頭を左右に振る。
スイカの吸血鬼なんて聞いたこともないし、第一、植物であるスイカが独りで勝手に動くわけがない。いや、植物どころか今はもう食べられるのを待つただの〝食物〟だ。
きっと、すべては偶然の一致なのだろう。
初めから僕の中にこのスイカに対する疑念や恐怖の感情があったから、そんな風に都合よく、本当は関係のない個々の事象を繋げて考えてしまったに違いない。
僕はなかば強引にそう結論づけると、もうそれ以上、このことについて考えることをやめた。
ただし、それは本心からそう思ったからではなく、次第に現実味を帯び始めたその妄想の、言い知れぬ恐怖から逃れるためであったのだが……。
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