西瓜の赤い色は…

12/17
前へ
/17ページ
次へ
 そんな折、この青果店のある商店街では毎年恒例の夏祭りが開かれる時期となった。  夏祭りといっても神社のそれではなく、商店街に夜店が出たり、広場に櫓を立てて盆踊りをしたり、こじんまりとした花火を上げたりと、そんな地域住民の娯楽と商店街活性化を目的とした納涼祭である。  その催し物の中の一つとして、これも毎年のことなのだが「スイカ割り大会」というものもある。  その名の通り、目隠しをした人間が周りの先導する声に従って、うまいこと棒でスイカを割るというあのゲームだが、海水浴でするそれと違うのは、砂浜ではなく広場に敷かれた青いビニールシートの上でやることだ。  でもって、それに使うスイカを提供するのは、当然のことながら商店街で唯一の青果店――つまりはこの店ということになっているのだが、この年は例年以上に人の出が多かったらしく、準備していたスイカでは数が足りなくなってしまった。  夏祭り臨時営業のため、その日バイトだった僕が夜まで店番をしていると、汗だくの実行委員の人が慌てて駆け込んで来て、店に残っているスイカを全部くれないかと言ってきた。  もちろん、その分、後で実行委員会から代金が支払われるし、大量購入してくれるお客さまは大歓迎である。  ところが、求めに応じててスイカの置かれた棚の方を振り返ってみると、生憎、棚には二玉しかスイカが残っていなかった。  今日もぼちぼち売れたし、何より当の夏祭りに供出してしまっているので、当然、残っている数は少ないのだ。  ……いや、それでも夏祭りの終了時間は迫っていたし、二つもあれば数的には充分だったと思う。  問題はそこではないのだ。問題は……その中に〝アレ〟も含まれているということだ。  あんな得体の知れないものを渡すのは、やはり気乗りがしない……。 「それじゃ、ここにある二つもらってくよ!」 「……え? あ、あの……」   だが、汗だくで急かす実行委員の人に「あのスイカは危険です」などと、バカげた理由で断るわけにもいかない。  僕がどう言おうか躊躇っている内に、彼はその二玉を段ボール箱に入れて、さっさと持って行ってしまった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加