西瓜の赤い色は…

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「痛てっ!」  だが、次の瞬間。木刀はスイカをかすりもせず、硬い地面を叩いて男性の手を痛めていた。 「………………」  僕は、今見た光景に目を見開き、呆然とその場に立ち尽くしてしまう。  あのスイカが、ごろんと横に転がったのだ。まさしく文字通りにごろんと……。 「ちょっと今のはナシなんじゃない? 動いたわよ、あのスイカ!」  奥さんが少々興奮気味に、実行委員のおじさんに文句をつけている。  他の観客達も、その言葉に頷いている。  となると、僕の見間違いではなかったようだ……やはり、あのスイカはひとりでに……。 「もう、ちゃんと転がらないように置いといてくれないと。ここの地面、傾いてるんじゃないの?」 「いやあ、すみませんね。形が歪だからかなあ? 今度は転がらないようにちゃんと固定しますから……」  だが、直後、奥さんとそんな会話を交わした実行委員はどこからか風呂桶みたいなものを持ってきて、間一髪、難を逃れたあのスイカをその枠にすっぽりと嵌めてしまう。  どうやら、僕と他のみんなとでは〝動く〟の意味が違っていたらしい……。  いや、普通ならそう考えるのが当然だ。あれは自ら動いたのではなく、ただ何かの拍子に転がっただけなのだ。 「そう! そのまま真っ直ぐ! あと、三歩くらい!」 「パパーっ、がんばれーっ!」  僕がまたしても妄想に取り憑かれてしまっていた自分に反省している間にも、最後のスイカ割りは再開され、家族の声に導かれながら、木刀を振り上げた男はあのスイカへと迫ってゆく。  あれだけしっかり桶に嵌っていては、今度はヤツも逃げることが……いや、転がることはないだろう。 「そう! そこよ! そのまま叩いてっ!」 「えいっ!」  そして、再び絶妙な位置に来た男性は、あの禍々しいスイカを目にすることもなく、上段に構えた木刀を改めて思いっきり振り下ろす。
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