西瓜の赤い色は…

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 初めは僕も「これはいいスイカだ」と、買いに来るお客さんには積極的に薦めていた。  無論、お客さんの方にしても、その持ち帰るのに苦労するであろう大きさと重さを特に気にする風もなく、むしろ、たいそう喜んで買ってゆく……。  いや、今だって薦めれば、きっとお客さんはあのスイカを迷わず選んで買ってゆくだろう。  ところがである。  あのスイカは……どうやら戻ってくるらしいのだ。  いや、〝戻ってくる〟というのは返品されるとかそういう意味じゃなく、どうもスイカ自身が独りでに……。  こんなことを言うと、僕の頭がどうかしているように思われるかもしれないが、ここ半月ほどの経験からして、どうにもそうとしか考えられない……。  あのスイカは何度売っても、次の日の朝には必ず店に戻ってきているのである。  そりゃあ、僕だって最初からそんなバカなこと信じていたわけではない。  アレが店に仕入れられ、そして、その日のうちに初めて売れたその翌日、午後から店に出た僕は、その店先である奇妙な既視感(デジャヴュ)に囚われた。 「あれ? これ確か昨日、売ったはずじゃ……」  僕は、他のものよりも一際大きなそのスイカを見つめ、思わず疑問を口にした。  それはまるで何事もなかったかのように、平然と、昨日置いてあったのとまったく同じ場所に存在していた。  その大きさや黒い筋模様のパターンからして、どう見てもこれはあの一つ抜きん出て大きかったスイカである。  しかし、そのスイカは確かに昨日、僕自身がお客さんに売ったはずなのだ。ならば、こんな所にそのスイカがあるはずがない。  僕ははじめ、もしかしたら腐りでもしていて返品されたのではないか? と、そう考えた。  しかし、その考えはすぐに間違いであると気づく。そんな傷物で返品されたならば、余計、こんな店先に商品として出されているわけがない。  では、なぜ、ここにあるのか?  僕は考える……。  だが、その答えはまるで見当もつかなかった。  どう考えてみても、昨日売ったものが店に置いてあるわけがない。  とすると、このスイカは昨日売ったものとは別物なのかもしれない。  大きさや模様はそっくりでも、新しく仕入れられたものなのではないだろうか?  いや、むしろそう考える方が明らかに常識的である。
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