西瓜の赤い色は…

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 ……でも、断言はできないし、説明もうまくできないのだが……感覚的とでもいおうか、そのスイカの持っている雰囲気が、数週間前に売った……否、その時から〝売り続けている〟ものと同一であると、確信を持って僕に訴えかけていたのである。  それ以来、僕はアレをお客さんに薦めるのをやめたのはもちろんのこと、なるべく買われることのないようにと目立たぬ隅の方へ移動させたのだった。  こんな気味の悪いスイカ、とてもじゃないが、お客さんに買わせるわけにはいかない。  もしアレを買って行って悪いことでもあったら大変である。  そういえば、今までにアレを買っていった人達は大丈夫だったのだろうか? ……まあ、何かあったという話はまだ聞かないので、大事には至っていないようではあるが。  いや、何かなくても買って来たスイカが食べる前になくなってしまったら、それはそれで騒ぎになっていてもよさそうな……そう考えると、やっぱりこれは僕の妄想なのだろうか?   そうして僕自身も半信半疑ではあったが、用心にこしたことはない。  とにかくアレをこれ以上売ることは避けたかったのである。  ところが、そんな僕の密かな抵抗を他所に、店長代理の男は…… 「おい、そこの一番大きなスイカ。んな目立たねえとこに置いといたら売れねえじゃねえか。もっと真ん中に置いておけよ」  と、普段は店番をすべて僕らに任せているくせに、たまに店の方へ出てきた時にはそんな要らぬ注文をつけてくる。  まあ、普通に考えれば、その言い分は商売としてしごく当然なのであるが。  一介のバイトの僕が店長代理に逆らう訳にもいかず、言われた時には仕方なく棚の前の方にアレを並べ、そして、見た目には一番大きく、いかにも美味しそうに見えるそれはすぐに売れていった。  案の定、その翌日にはまた店に戻ってきているというパターンを繰り返しながら……。  さて、そうして僕が不気味なスイカを売らないよう心を砕いていたある日、常連客のおばさんから、ある奇妙な話を聞いた。 「――ああ、そういえば知ってる? 最近、この辺で流行ってる変な病気の話!」 「変な病気?」  釣銭を受け取りながらそう言うおばさんに、僕はなんのことだかさっぱりわからず、怪訝な顔で聞き返す。
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