西瓜の赤い色は…

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「ええ、そうなのよ。それがね、突然、血が少なくなって寝こんじゃうんですって」 「血が少なくなる? ……貧血とかじゃなくて?」 「それが、貧血じゃないらしいのよ。ある日突然、ほんとに体の中から血がたくさんなくなっちゃうみたいなの。しかも、その病気にかかった人はみんな首筋に何かに刺されたみたいな傷があるんで、吸血鬼の仕業なんじゃないかっていう人もいるわ。まあ、よく映画とかで見る牙で噛みつかれたような二ヶ所の傷じゃなくて、こう蚊に刺されたみたいに一ヶ所だけみたいだけどね」  そう説明しながらおばさんは、汗ばんだ自分の首筋に人差し指を立て、頸動脈を刺すような仕草をしてみせる。 「へえ~吸血鬼ですか……じゃあ、巨大な蚊みたいなのに吸われたんですかねえ? いや、さすがにそんな血がなくなるほど吸う蚊なんていないでしょうし、マラリアみたく、その蚊から新種のウイルスにでも感染したとか?」  さすがに吸血鬼なんてことはないだろうが、突然、血が少なくなってしまうとは確かに奇妙な病である。  そんな奇病がご近所で流行っているとは知らなかったので、僕は感心したように恍けた声を上げ、常識的に考えられる可能性を推理してみるのだったが。 「さあ、どうなのかしらねえ。病院に行ってもお医者さんは首を傾げるばかりで、いまだに原因不明のままらしいわよ。まあ、それで亡くなった人はいないみたいだし、輸血してもらえばすぐによくなるらしいんだけどね。それでも、やっぱりなんだか怖いわよねえ……ああ、怖いといえば、最近、泥棒もこの界隈でよく出るらしいわよ?」  おばさんはもう一つ、僕の知らないご近所の流行りを思い出したかのように付け加える。 「吸血鬼の次は泥棒ですか?」 「そうなの! それもただの泥棒じゃないわよ? そいつはね、金目のものじゃなくて〝スイカ〟を盗んでいくらしいの」 「スイカ?」  その言葉に、僕はそれが何を意味するのかもわからない内から、なんとも得体の知れない、嫌な胸騒ぎを本能的に覚える。 「そう! スイカよ! 聞いた話じゃ、スイカを買って来て翌朝食べようと思ったら、いつの間にやらそのスイカが見当たらなくなってるらしいの。まあ、それ以外に盗まれたものはないし、近所のこどもの悪戯かもしれないけどねえ……この店で買ってったスイカも被害にあってるかもよ?」
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