さよならライラック

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池園咲は馬鹿な女である。 と、いっても頭が悪いという意味ではない。むしろ彼女は頗る頭がいい。高校の時はトップの成績を誇っていたし、僕が猛勉強して入った大学に彼女は当時付き合っていた彼氏が行くからとワンランクツーランク学校のレベルを落として入学したくらいだ。ああ、でもこういうところである。彼氏のためにと彼女は自分の人生を蔑ろにしがちだ。今回だってそう。 「だから不倫なんかやめとけっていったのに」 「うう……」 池園はハンカチを涙で濡らしながら泣いていた。話したいことがあるからと呼び出された雰囲気の良いカフェは、確か池園の前の前の彼氏のアルバイト先だったはずだ。 「でも慰謝料とか請求されなくて良かったじゃん」 「みっちゃんは分かってない。修羅場って別れたばっかりなのに慰謝料請求されなくてよかった~なんて思えないよ。ばか。慰め下手」 池園は涙で濡れた目で僕を睨みつけた。そうはいっても池園のこの手の話は耳にタコができるくらい聞いたし、慰めの言葉はとうの昔に尽きてしまった。それでもこうして相談してくるのだから、ただ話を聞いてくれる相手が欲しいだけなのだろう。 「だいたい、恋愛なんて幸せになるためにするものだろ。なんで不倫なんかに走っちゃったかな」 「みっちゃんって、本当分かってないよね」 池園は握りしめていたハンカチをそっとテーブルの上に置いた。花の刺繍のされた白いハンカチは、落ちたファンデーションで汚れていた。ああ、どこかで見たことがあると思ったらいつか僕がプレゼントしたやつだ。 「そりゃ確かに、幸せになりたいなーと思ってるよ。恋する前は。でもね、恋に落ちたらそんなの関係ないの。例え不幸になって地獄のような想いをしてもいいから、この人が好き、一緒にいたいってなるの」
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