第6章 貴族の世界

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「う…」 目を開けたものの、視界が歪んでるから周りの状況がよく分からない。 手足も動かせない。神経を集中させて、今の自分の状態を分析してみる。 どうやら両腕は背中でひとまとめにされているようだ。痺れからか感覚がなくなっていて、指先を動かすだけでも一苦労だ。両足もひとくくりになっているみたいで…さながら今の俺の状態はいも虫か。 視界が歪むのは、たぶんキツい香りの煙のせいだろう。吐き気がする。あと体全体が熱っぽく、だるい。 何とかして起き上がれないかともがくが、上手くいかない。すると、後ろでドアの開く音がした。 「……お目覚めになられましたか、殿下」 そして聞こえてきた声は、最悪な相手のものだった。 「アヴェルス卿…、なんの、つもりだ」 「何の…そうですね、強いて言うならば殿下の魅力を最大限引き出すため…でしょうか」 「…は…?」 ゾワッと気持ちの悪い感覚が背をかけ上る。 「どうやら殿下は私を侮っていらっしゃったようですね…こんな簡単に捕まってしまうとは」 アヴェルス卿が俺の目前に回り、しゃがみこむ。体が自由なら蹴飛ばしてやるのに。 「私はね、殿下の苦しむ姿を見たかった…殿下の澄ました顔を苦痛と快楽で歪ませてやりたいと思っていたのです」 その悦楽に歪んだ笑顔に、さらに悪寒が走る。ただひたすらに気持ち悪い。つまり俺を「そういう目」で見ていたわけだ。 「こ、の…変態サド野郎…っ!」 「ああ、ふふ…褒め言葉ですよ」 このあとの展開は容易に想像できる。 でもみすみす好き勝手にされてたまるか。 キッ、と睨み付けるが、それは相手を喜ばせるだけだった。 「今日は楽しんでいただくために何人か私の部下を連れてきていまして…」 用意周到なことで。 つーか、相手はあんたじゃないのか。 「他の奴に、襲わせて…自分は、見てるって? は、ほんと…いい趣味、してる…」 「お褒めいただき光栄です。ああ、そうだ、殿下が吸ったものは、誘淫性のもの…いわゆる媚薬的な成分が含まれていまして」 「…っ、は…」 「さぞ苦しくも心地のよいものなのでしょうな」 数人が部屋に入ってくる。 頭がくらくらする。 上手く思考が働かない。 ただ一瞬だけ、なぜかジェラの顔が浮かんで、消えた。
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