第6章 貴族の世界

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(ジェラルド視点) ー ロディを助け出す1週間前… 例えば、俺の自尊心がズタズタになるだとか、腸が煮え繰り返るような憎しみを向ける相手に会わなきゃいけないだとか、そんなこと、ロディを助けるためなら些末なことだと思えた。 「…これは、何の真似だ?」 「あんたしか頼る奴がいない」 俺は奥歯をギリ、と噛み締めながら床に額をつけた。こんなことでこの男が動くとは思えない。でも、何もしないよりはマシだ。 相手は嘲るように笑いながら俺を見下している。 「情けない様だな。そんなプライドも何もかもをかなぐり捨てやがって…俺なんぞに頭下げて、這いつくばって、悔しくないのか?」 「あんたに何かを頼むなんて、俺にとっては屈辱以外の何物でもない」 「そうだろうなぁ。だが、それをしている。何のためだ?」 「親友のため」 「は、親友ね…そんなもんのためにご苦労なこった」 「あんたには分からないだろうな」 そうだ。この男に情なんてものを期待するだけ無駄だ。理解されないことは、最初から分かっている。 「…、…っ、…俺があいつの親友だってことは、あんたにとっても利用価値があるはずだ」 「ほう」 「俺の親友の名前は、」 顔をあげ、憎い男を睨み付ける。 「ロディーノ・トレイティア。この国の第2王子」 「…はは、それで?」 「あいつは今、妙な奴に目をつけられているんだろう? 聞いた話じゃ、とんでもない性癖をもつ変態嗜好な野郎だと」 「間違っちゃいねぇな」 「あんたなら宮廷の事情には詳しいだろう」 「俺に何を求めるって?」 「情報がほしい。何でもいい。ロディを守る力がほしい」 「そんなことのためだけに…」 ぐい、と胸ぐらを掴まれる。 「お前を捨てた憎い父親に土下座しに来たのか?」 「そうだ」 「妙な育ち方しやがって…」 目の前の男… 俺と母さんを捨てた貴族の男、 ヒューゲル・バージェが至極面白そうに口元を歪ませた。
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