第6章 貴族の世界

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(ジェラルド視点) 「新しく配属されたジェラルドだ。指導よろしく頼む」 「…どーも」 じと、とした目線で見つめられ苦笑してしまう。目の前にいる彼は、ロディを助け出す際に手助けをしてくれた人物だ。 アヴェルス卿は用意周到な男で、警備も分厚かったということだが、目の前の彼が「掃除」しておいてくれたらしい。 「あの時はありがとう。おかげで取り戻せた」 「別に。俺はあいつが嫌いだからな。正直ざまぁみろって感じだ」 「…はは」 彼の名前は、ルーシェス・ユール。 何の因果か、ロディの恋敵と同僚になってしまったというわけだ。話を聞く限り、お互い反目しあっているらしい。 「でも手助けしてくれた」 「上司の命令だ。守る奴の名前は聞いてなかった。あいつの護衛だなんて聞かされてたらやってなかったっての。それを知っててあのクソジジィは知らせなかったんだ。くそ」 「君のおかげで助かったのは事実だ。ありがとう」 「…ふん」 そして、なんとルーシェスは俺の教育係に任命されたという。バージェ卿は何を考えているんだろうか。わざわざ火種になりそうなことをして、もしも俺とロディが仲違いしたらどうするつもりなのか。 ぐるぐるとした思考に陥っていると、「おい、行くぞ」と声をかけられた。慌ててあとを付いていく。 「間取り図は頭に完璧に入れろ。賊が侵入しやすい経路もな。つーか、うちは結構ザル警備だから、刺客と相対した時の対応を学んだ方がいいかもな」 「そうか…奥の殿にも賊が入ったと噂で聞いた」 「そう。普通あそこまで入り込まれるわけがないんだが、あの時は騎士に裏切り者が紛れてたからな」 ぴたりと歩を止め、ルーシェスが俺に目線を送る。 「新人は目をつけられやすい。あんたはどんなツテで、何を目的に入ってきたのかは知らないが、自分の身の安全は確保しておくんだな」 「ありがとう。気を付ける」 「…」 「…?」 眉間に皺を寄せ、妙なものを見るような目で見られる。何かおかしなことを言っただろうか。首を傾げると、ルーシェスはそのまま足早に歩き始めた。 「……猫かぶってんのか、ただの無垢な馬鹿か…」 「え?何か言ったか?」 「……いや?精々貴族どもに食い殺されないように気を付けるんだな」 そう言ってルーシェスは意地悪そうに微笑んだ。
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