第6章 貴族の世界

9/14
156人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
(シェス視点) 妙な奴だと思った。 あんなくそ王子のために、それこそ身を削るような思いをしてまで助けに行ったことも、助け出したあとに愛しそうにあいつを抱きしめたことも、俺としては「お前は一体何をそいつに求めてるんだ?」と首を傾げるばかりだ。 保身のためか、それとも付き合うことで何かメリットを得ているのか。 とりあえず用心に越したことはないから、監視も兼ねて教育係になった。嫌々だけど。 「で、見回りのルートはこれ。立ち入り禁止区域はここな」 「ありがとう」 「…」 …で、ここ数日の俺が見たこいつの感想。 文句を口にしない。 仕事を効率よくこなす。 愛想がいいから周りの連中に好かれてる。 真面目。冗談もそれなりに通じる。 親切で困った奴を放っておけない。 この国生まれのわりに真っ直ぐ。 知識と常識がある。 「お前、あの王子に弱味でも握られてんの?」 「えっ、どうしてだ?」 見回りをしながら問いかけると、本気で「何のことか分からない」という顔をされた。 「何であんな奴と親友なんだ? 弱味握られて言いなりにでもなってるのかよ」 「いや、特には…ロディとは仲いいと思う」 「ふーん。あいつと付き合うの大変そうだけどな」 「俺は負担に思ったことはないよ。周りには我が儘に見えることも、俺には可愛く見えるし」 「かわ…」 可愛い?! おもいっきり眉間に皺を寄せると苦笑された。まさかあいつに対してそんな酔狂なことを思う奴がいたなんて。しかもそのまま「守ってやりたい」「俺にとって大切な宝物」「甘えてくるのが可愛い」「どろどろに甘やかしてやりたい」なんてのろけを聞かされるハメになった。 「お前が言ってるロディーノと、俺が言うロディーノは別人なんじゃないか?」 「いや、助け出したときにロディだっただろう?」 「…。…あんた、惚れてんの?」 「ああ、そうだよ」 「即答かよ」 「あの場面を見られたんだ。とっくにバレてると思ってたんだけどな」 にこりと毒気のない顔で微笑まれる。 その本気さにまた驚いてしまうが、まぁ世の中にはこういう奴もいるんだろう…
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!