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「その前に、王国に蔓延る腐ったものを出来るだけ排除しておきたい」
「…その算段を伺っても?」
「父上の死を、事前に公表する」
「事前? 死んでないのに死んだことにするってこと?」
きょとん、として聞き返すと、兄さんはこくりと小さく頷いた。
「父の容態は、現在安定している。しかし、ここで突如崩御したという知らせが出れば、今は猫をかぶって大人しくしている連中も、動揺してボロを出すだろう」
「そこを潰す、と」
「そうだ」
「でも、もしかしたら反意は無い人もいるかもしれないけど」
「崩御で狼狽えるような奴らだ。後ろ暗いところのひとつやふたつはある」
「それじゃ、怪しい奴らは片っ端から捕まえて尋問、投獄、処刑、と…一族全部?」
「全てだ。膿を出し尽くす」
「兄上が恨みを買いまくりそうですけど?」
「構わん」
兄さんが纏う空気が、ピり、と張りつめる。
「俺の国に、腐った異物はいらない」
その強固な意思を秘めた瞳に見つめられ、ぞくりとした愉悦を感じた。そう、兄さんはそうでないと。他者を冷徹に切り捨てる強さと、そして心の内は罪悪感で押し潰されそうになっている脆さを併せ持つ…それこそが、レミジオ・トレイティアだ。
その脆さを突いて崩してやりたい。完膚なきまでに叩きつぶしてやりたい。無様に没落する兄さんを見てみたい。
最近の俺はそんなことばかり考えている。
その思いを内に秘めたまま、俺は兄さんの隣にいる。
兄さんは、俺に強い畏怖と憎しみを植え付けた人。そして、
「兄上の仰せのままに」
俺に心の底から「この人を手に入れたい」と、思わせた人だ。
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