第6章 貴族の世界

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…違う。 俺が腹立たしいのは、バージェ卿がジェラに対して酷いことをするからだ。ジェラが辛い目に遭うのが許せない。こんないい奴を無下に扱うなんて最悪だ。 「…俺のこと助けるとき」 「うん?」 「土下座したって」 「…っ、カッコ悪いところ知られたな…」 「カッコ悪くない!でも、ごめんな、俺のために嫌なことすることになっちゃって」 「ロディのためなら何だってするさ」 にこりと微笑みかけられ、その優しさに少しだけ胸が痛んだ。俺なんかのために身を削るようなことしてくれて…俺は何を返せるのだろうか。 「いや!俺の気が収まらない!お詫びに、何でも一個言うこと聞く!」 「……えっ」 ジェラは一瞬硬直したあと、目線をさ迷わせて困ったような表情になった。ジェラのことだから、きっと俺に負担のないようなことを考えてくれてるんだと思う。 「ジェラがしたいこと、教えて?」 「…か…っ」 「か?」 首を傾げるとジェラは真っ赤になった。熱でもあるのかな。もしかして最近忙しいから、体調が優れないのかもしれない…だったら早く解放してあげたほうがいいか。 「か、かい、買い物!買い物が、したい」 「へ」 「入り用のものがあって…ああ、量も、多くて、その、出来れば一緒に来てほしい…」 しどろもどろになりながらジェラが俺の手を握る。その手は熱くて、力強かった。 「そんなんでいいのか?」 「あ、ああ」 「優しいなー、ジェラ!」 「そ、そうでも、ない…」 ガックリと項垂れるジェラを見て、はて、と疑問符が浮かんだ。まぁとりあえず、買い物なんてお安いご用だ。 「じゃあ、次の非番の時でいい?」 「ああ…いつでも。ロディがいい時で」 「俺はどうとでもなるから、大丈夫だ!」 笑いかけながらジェラの手を握り返す。 最近ルーシェスに取られてばっかりだったから、独占したいなって思ってたんだ。 …。 それがあんなことになるなんて全く予想もしてなくて、このあと俺は、自分の浅はかさを、かなり後悔することになる。
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