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「…」
あれから数日。ジェラとは会ってない。
時々仕事をしているのは見かけるけど、俺はすぐにその場を離れてしまうから顔を合わせることはなかった。ジェラも会いに来ないし。
「…何考えてんだよ、ジェラ…」
ジェラルドが俺のことをどんな風に見ていて、どんな想いを持っていたか、なんて考えたことなかった。
…。
違うな。「考えたくなかった」が正しい。
本当は分かっていたんだ。
どうして俺のことを甘やかしてくれるのか。
どうしていつも俺を特別扱いしてくれるのか。
どうしてそんな優しい眼差しを向けてくれるのか。
ジェラの想いに気付いていたのに、知らないフリをしてたんだ。言葉にしたら、今の居心地の良い関係が崩れてしまう気がしたから。
「はは…俺って馬鹿な奴…」
自嘲しながら窓の外を見る。眼下には鬱蒼と生い茂る精霊の森。うちの国に精霊様なんてものがいるのなら、魔法か何かでジェラの俺に対する記憶を消し去ってほしいと願うよ。
苦しい。
こんな気持ちになるって分かってたのに、そばに居続けた自分の馬鹿さ加減に腹立つ。
「…ロディ兄さん?」
「!」
突然聞こえた声に驚いて振り向くと、後ろにアイルが立っていた。こんな近くに来るまで気付けなかったなんて。
「やぁ、アイル。元気だった?」
「はい。…ロディ兄さんは…その、大丈夫ですか?」
「うん?」
「顔色が良くないです」
「大丈夫。ちょっと疲れてるのかもな」
にこりと微笑んでやると、アイルはいくらか安心したようだった。
「ね、少し話そうよ」
「え? あ、はい」
アイルの部屋に招き入れられ、柔らかいソファーに腰かけた。隅の方を見ると、酒瓶が集められていた。やたらと多い。
「酒瓶の数すごいな」
「あ、はは…その、ちょっと…酒宴の時に…」
「へぇ、アイルって酒強いんだ」
「強くはないんですけど…半分ヤケ酒というか…」
「ヤケ酒?」
きょとんとしながら問いかけると、アイルはばつが悪そうに目線をさ迷わせた。
「シェスが酒宴の1日目に来なくて、それで…その、レミジオ殿下のところにいるんだって、ロディ兄さん言ったじゃないですか。だから…あの……」
真っ赤になっちゃって可愛い。
1日目。俺が襲われた日か。
そういえば襲われる前にアイルに会いに来たんだった。
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