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「シェスはレミジオ殿下の特別だって、そう言いましたよね」
「…ああ、うん、言ったね」
そう。ルーシェスは兄さんの特別だ。
酒宴の日、確かにあいつは兄さんに呼び出されていて、それで腹が立って…半ば八つ当たりのように、アイルにそのことを伝えたんだ。
いたいけな弟を巻き込むなんて我ながら最低だな。
「…シェスとレミジオ殿下って…」
「…」
「…」
アイルは俺に何か聞きたいようだった。
でも迷ってるみたいで、その先の言葉は出てこない。
「ルーシェスと兄さんの過去、知りたい?」
「…!」
「話してあげてもいいよ」
「…いえ…大丈夫です。シェスに直接、聞きます」
「そう?」
「もう聞くことを怖がるのは、やめたんです。伝えないまま、会えなくなってしまうことだってありますから」
「…」
ふと、ジェラの顔が浮かんだ。
俺は「親友」という言葉に甘えて、散々ジェラを振り回してきた。ジェラの気持ちに気付いていながら、見ないフリをしてきた。
その代償はあまりにも大きかったけれど。
「アイルは強いな」
「強くはないですけど…ただシェスのこと、少しは信じてみようかなって思ったんです」
「そうか」
柔らかな笑みを浮かべるアイルを見て、本来「恋」はこんな風にあたたかいものなんだろうな、と思う。間違っても俺のような気持ちを抱くことはないんだろう。俺が兄さんに抱くそれは醜く歪んでる。俺はアイルのようになれそうにない。
そしてそれは、兄さんにも言えることだった。
兄さんのルーシェスへ向ける感情は、恐ろしいほどの熱をもっている。純粋なアイルは、 過去、兄さんがルーシェスに対してしてきたことを聞いたら卒倒してしまうかもしれない。
俺は兄さんになら何されてもいいけど、ルーシェスはどう思ってたんだろうな…。
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