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王宮内に戻り、自室へと向かう。
兄さんとシェスのことを考えるともやもやしてくる。あと苛つく。
兄さんがルーシェスを「買って」きたのはいつだったか…もう、5,6年は経つかな。
ルーシェスはアングラな組織で、人身売買をされていたらしい。買おうとする相手をことごとく蹴り飛ばして噛みつくような奴だったみたいで、全然売れる気配がなかったんだと。
それで…たまたまその場に居合わせた兄さんが、ルーシェスを「買った」と聞いている。
で、理由を聞いて腸が煮えくり返ったのを覚えてる 。
一目惚れ、だって。
腹立たしいのはそれだけじゃない。どうやらルーシェスも兄さんに少なからず恋心を抱いていたみたいなんだよな。見てれば分かる。
それでもルーシェスが兄さんから離れたのは…
そこまで考えて、僅かに聞こえる声に意識がもっていかれた。
「…?兄さんの執務室?」
そっと扉に近づき、中を窺う。
扉はほんの少し開いていた。
「…王宮に来たのなら俺のところに寄ればいい」
「お前に会いに来たんじゃない。仕事だ」
そこにいたのは、兄さんとルーシェスだった。
「巫女の宮殿に配置替えを希望したのは、俺から離れるためか?」
「それ以外に何がある?お前のそばからとっとと離れたかったんだよ」
「ならば国外に行けばいい」
「あいにくツテがまだないからな。もし出る算段がついたらそうするさ」
「…シェス」
「俺はお前の所有物じゃない」
「物扱いをした覚えはないが」
「無意識かよ。たち悪いな」
「お前を買ったとき、ずっとそばにいると約束しただろう」
「やめろ。もう俺はお前のことなんてどうとも思ってない。そばにいたいとも思わない」
ルーシェスが苛立ちながら兄さんを睨み付ける。 兄さんの表情はよく見えない。
「…それでも、俺はお前に近くに居てほしい」
「断る」
「そこにお前の意志がなくても構わない」
「は?」
「…お前は戻ってくるさ。必ず」
「…」
ゾッとするような冷たい声が聞こえる。
兄さんは、欲しいもののためならば手段を選ばない人だ。
…。
まだ何か話していたようだけど、それ以上は聞かず…俺は逃げるようにその場を離れた。
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