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それから数日。
相変わらずジェラとは話せなくて、胸だか腹だか分からない部分がもやもやしたまま、ただ時だけが過ぎていった。
そして、悪い予感がひとつ、的中した。
「…、ルーシェスを捕まえた?」
「そのようです。現在牢につながれています」
兵士からそんなことを聞いて、「やっぱり」という気持ちと、「何で今さら」という気持ちが混ざりあう。
ルーシェスを捕まえたのは兄さんだ。巫女の宮殿から城に来たときに、部下を使って昏倒させたらしい。手段を選ばない兄さんらしいけど、どうして今さらそんなことをしたんだろう。数日前の口論が原因だろうか?
「…」
俺の足は自然と牢に向かっていた。
**
地下の牢の、奥深く。
他の囚人たちから隔絶されたその牢に、ルーシェスはいた。右手が吊るされ、後ろの壁にもたれかかるように座っている。どうやら意識はないようだ。
「……ロディーノ?」
「!」
じっと見つめていると、後ろから声をかけられた。ゆっくりと振り返ると、そこには暗い目をした兄さんが立っていた。
「なぜここにいる」
「…あー、うん、兄さんがルーシェスのこと捕まえたって聞いて、ちょっとした興味本意で」
にこ、と邪気のない笑みを向けると、兄さんは感情のこもっていない声で「そうか」とだけ呟いた。
「ルーシェスさ、何かしたの?」
「いや…ただ、」
「ただ?」
兄さんは一瞬躊躇うように目線を落とし、ゆっくりと俺の後ろ…ルーシェスに目を向けた。まるで俺の存在なんか、見えてみたいだ。
「ルーシェスをここから離れさせないために、…ルーシェスの1番大切なものを手に入れるために、捕らえた」
「1番大切なもの?」
「そうすれば、ルーシェスはここから離れない。もう二度と、…俺のそばから離さない」
「…っ」
刺すような暗い炎が燃える瞳をルーシェスに向ける兄さんは、怖いけど綺麗で…とても胸が、苦しくなった。
決して俺に向けられることのない激情。
欲しい。
兄さんの深くてドロドロした熱を、俺に向けてほしい。他の誰かではなく、俺に。
「…。ねぇ、兄さん」
「何だ」
「じゃあさ、俺にもそれ、手伝わせてよ」
そのためなら俺は、兄さんの想いを踏みにじることだって、できる。
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