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「でも兄さんから望まれてるんだからさ、そばにいればいいのに」
「俺より、ロディ兄さんやヴェルネル殿下の方が…きっと、レミジオ殿下のことが分かるって思ってます」
「そうかな?」
「…レミジオ殿下は、ロディ兄さんに嫌われてるって言ってました。そんなこと、ないですよね?」
「………、へぇ、兄さんそんなこと言ってたんだ」
嫌われてる、か。
そんな風に振る舞ったことなかったんだけど、兄さんはそういう風に思ってたんだ。
…まぁ、これからもっと嫌われるようなことするんだから、別にもうどうだっていいけど。
「…俺が兄さんを嫌ってるかどうか、か。そうだな、半分は当たってるかもな」
「半分…?」
「だから、これあげるよ」
ひゅっ、と空を切る音をさせながら金属が飛ぶ。アイルの目の前に投げたのに、舌打ちしながらルーシェスがそれを受け取った。
「…鍵?」
「それで裏口の扉が開く」
「そんな見え透いた罠に乗るか」
「信じるか信じないかは任せるけど、表から堂々と出ていったら捕まるだけだって。兄さんは視察からそろそろ帰ってくるし」
「…」
鍵は本物だ。
ま、もし信じなくてもそれはそれで別の手を考えるだけだけど。
とにかく俺は、ルーシェスもアイルもとっとと兄さんの手の内から逃がしたかった。執着するものがなくなったとき、兄さんは落胆するだろう。
本当は兄さんを悲しませたくない。でももう、限界だ。
どうせならとことん嫌われて、負の感情でも何でもいいから俺に強い思いを抱いてほしい。そのためならいくらでも、俺は兄さんの大切なものを排除していく。
くるり、と背を向けてその場から去る。
何なら二人ともこの国から逃げてくれたらいいのに、なんて思いながら歩を進める。
……ああ、早く兄さんに会いたいな。
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