第7章 それぞれの想い

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「……」 アイルが囚われていた、やたらと豪奢な部屋のベッドに、兄さんが無感情な顔で座っている。いつもよりも落胆していることは、今見たらきっと俺以外も分かると思う。 視察から帰って来た兄さんは、アイルが逃げ出したことを知った。それを助けたのがルーシェスだってことも分かってる。 「兄さん」 「……何だ」 扉に寄りかかりながら、兄さんをじっと見つめる。兄さんはこちらを向かない。 「アイルたちのこと追わせなくていいの?」 「…」 「早くしないとこの国から逃げちゃうかも」 「…」 「もう飽きたの?」 「…」 何を問いかけても、兄さんは答えない。 最初は何も知らないフリして慰めて、そのあとバラそうと思ってたんだけどな。 「…。あのさ、兄さん」 「お前は」 でも、俺が話す前に兄さんが口を開く。 不思議に思いながら見ると、ゆっくりと光のない目が俺を見る。 「それを望んでいるのか」 「……それって?」 「俺のそばから、アイリールとシェスを逃がすこと、だ」 「…」 「お前がアイリールたちを逃がしたことは、もう知っている」 「ああ…なんだ、知ってるんだ」 正直、意外だった。 兄さんは俺を信じてる節があったから、それを疑われることはないと思ってた。 「そうだよ。俺が逃がした」 「それは、俺を嫌っているからか?」 「アイルにもそう聞いたんだっけ?そうだなぁ…」 つかつかと歩み寄り、兄さんの肩に体重をかける。兄さんは抵抗することなく、そのまま後ろのベッドがギシリと音を立てた。 「半分合ってるよ。俺ね、兄さんが嫌い。俺のこと分かってくれないから。でもね、それ以上にすっごい好き」 にこりと微笑み、そっと顔を近づける。 柔い唇に、壊れ物に触れるみたいな口づけをする。 「好きだよ、兄さん。こんな風に、組み敷きたいと思うくらいには」 「…」 兄さんは目を微かに見開き、驚いているように見えた。そりゃそうか、弟にこんなことされればな。 「知らなかっただろ? 俺ずっと、兄さんの『特別』になりたかったんだよ」 兄さんの上着のボタンを外し、白い首もとを露にする。そこにも顔を寄せるけど、兄さんは何も抵抗しない。余程ショックだったのかな。 「…ロディーノ」 「何」 「…。昔のことを、覚えているか」 「昔?」
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