157人が本棚に入れています
本棚に追加
「……」
アイルが囚われていた、やたらと豪奢な部屋のベッドに、兄さんが無感情な顔で座っている。いつもよりも落胆していることは、今見たらきっと俺以外も分かると思う。
視察から帰って来た兄さんは、アイルが逃げ出したことを知った。それを助けたのがルーシェスだってことも分かってる。
「兄さん」
「……何だ」
扉に寄りかかりながら、兄さんをじっと見つめる。兄さんはこちらを向かない。
「アイルたちのこと追わせなくていいの?」
「…」
「早くしないとこの国から逃げちゃうかも」
「…」
「もう飽きたの?」
「…」
何を問いかけても、兄さんは答えない。
最初は何も知らないフリして慰めて、そのあとバラそうと思ってたんだけどな。
「…。あのさ、兄さん」
「お前は」
でも、俺が話す前に兄さんが口を開く。
不思議に思いながら見ると、ゆっくりと光のない目が俺を見る。
「それを望んでいるのか」
「……それって?」
「俺のそばから、アイリールとシェスを逃がすこと、だ」
「…」
「お前がアイリールたちを逃がしたことは、もう知っている」
「ああ…なんだ、知ってるんだ」
正直、意外だった。
兄さんは俺を信じてる節があったから、それを疑われることはないと思ってた。
「そうだよ。俺が逃がした」
「それは、俺を嫌っているからか?」
「アイルにもそう聞いたんだっけ?そうだなぁ…」
つかつかと歩み寄り、兄さんの肩に体重をかける。兄さんは抵抗することなく、そのまま後ろのベッドがギシリと音を立てた。
「半分合ってるよ。俺ね、兄さんが嫌い。俺のこと分かってくれないから。でもね、それ以上にすっごい好き」
にこりと微笑み、そっと顔を近づける。
柔い唇に、壊れ物に触れるみたいな口づけをする。
「好きだよ、兄さん。こんな風に、組み敷きたいと思うくらいには」
「…」
兄さんは目を微かに見開き、驚いているように見えた。そりゃそうか、弟にこんなことされればな。
「知らなかっただろ? 俺ずっと、兄さんの『特別』になりたかったんだよ」
兄さんの上着のボタンを外し、白い首もとを露にする。そこにも顔を寄せるけど、兄さんは何も抵抗しない。余程ショックだったのかな。
「…ロディーノ」
「何」
「…。昔のことを、覚えているか」
「昔?」
最初のコメントを投稿しよう!