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この王国には、巫女が祈りを捧げる神殿があり、さらにその奥には『奥の殿』と呼ばれる鳥籠がある。
そもそもこの腐敗しきった王国で、巫女という職がどういう扱いなのかは、想像に難くないだろう。
「ロディーノ殿下、神殿には本来…騎士以外の男子は…」
「分かってる、分かってる」
にこにこしながら少量の金貨を握らせると、神殿を管轄する役人は渋々といった風を装いながら、中に通してくれた。
町では、巫女は聖なる職業だと言われているけど、実際はこんな感じだ。欲と権力と金にまみれた、随分と俗っぽい場所に成り果てている。
今日ここに来たのは、簡単に言えば偵察だ。
兄さんが大層気に入っている騎士が、最近『奥の殿』に勤めることになったと聞いたから。
兄さんに気に入られてるという事実だけでも腹立たしいのに、そいつ…ルーシェス・ユールは、兄さんのその好意が煩わしいと言う。
俺としては、ルーシェスが兄さんから離れるのは大歓迎なんだけど、出来れば国外に追い出してやりたいなとも考えてる。そのためには、ルーシェスの弱味は押さえておかないと。そのためにこんなところまで出向いているわけで。
長い廊下を進み、庭と繋がる回廊にたどり着く。
庭の奥には人影があり、何やら楽しそうな笑い声が聞こえてくる。巫女が一人、二人、…あ、ルーシェスが一緒にいる。不機嫌そうな顔だけど、巫女との距離感は遠くない。あいつが他人に近づくことを許すなんて、珍しいこともあったもんだ。
「…ねぇ、あの巫女って誰?」
「あの巫女たちですか?片方はシルヴァーナ嬢ですが…もう一人は見ない顔ですね。新しく入った者では?」
「へぇ」
シルヴァーナ嬢は、デルランジェ家のお嬢様だ。まるで売られるように、父親の権力と引き換えに神殿に入れられた可哀想な子。ま、ここではよくある話だけど。
「興味がお有りで?」
「そうだね」
それよりも気になるのは、あの銀髪の巫女。
見たことがある容姿…遠い昔の、うっすらと残った記憶。きっと、兄さんもそう思うはずだ。
「あれ、欲しいな」
兄さんにあげたら、喜びそう。
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