第8章 その気持ちに名前をつけるなら

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結局、誰にも相談できないまま時間だけが過ぎていった。兄さんとも顔を合わせづらいし、ヴェルネルには話題を振るなと言われるし、そもそも城にこれといった居場所がない。 「それで、その…今夜も泊めてほしいなー…なんて…」 「ああ、構わない」 「いや、構えよ?!迷惑だろ!」 「迷惑だったら叩き出してるさ」 苦笑しながらジェラが迎え入れてくれる。 俺はまたジェラに甘えてる。頼んだら断らないと知って来てる癖に、断ってくれないとモヤモヤしたもので胸が埋め尽くされる。 自分のことながらワガママすぎて嫌気がさす。 「ジェラは俺に甘いと思いまーす…」 「今さらだな。それに、俺はロディが一緒に居てくれることが嬉しいよ」 「…そ、そっか」 まただ。 あのどしゃ降りの雨の日から、ジェラは俺に対する気持ちを包み隠さずストレートにぶつけてくるようになった。それがものすごく、むず痒い。 そのむず痒さが何なのか分からなくて、悶々と悩んでた。今の関係を崩してしまうんじゃないかと思って、一歩を踏み出せなかったけれど… 「…」 「ん?どうした?」 ぎゅう、と抱きついてみる。 当たり前だけど、嫌悪感はない。 頭や背中を撫でられるのも好きだ。 もう分かってるんだ。 楽しいときとか、寂しいときとか、悲しいときとか、一緒に居たいと思う。抱きしめられたら安心する。自分をさらけ出すことができる。嫌われたら生きていけないんじゃないかと、本気で思ったことがある。 それはきっと、相手がジェラだから。 「…なぁ、ジェラ」 「何だ?」 ジェラと視線を合わせ、じ、と見つめる。 相変わらずの優しい表情だ。この優しさにどれだけ甘えて、どれだけジェラを傷付けてきたんだろう。 深く息を吐き、口を開く。 「俺、ジェラのことが好きだよ」 ジェラはきょとん、とした顔になって俺を見つめ返した。そして微笑んで一言、 「ありがとう。俺も好きだよ」 そう言い返して、俺を柔らかく抱きしめた。 …。 ……。 ……?? (んん…?) 何だろう。何かが違う。何か間違ってる気がする。確かにお互い「好きだ」と伝えあった。抱きしめられた。いやでも違う。何が違うのかと言われると分からないけど、…あれ? …これ、伝わってないんじゃないか?
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