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彼女が行ってしまう。もう二度と、会えないかも知れないのに。私の大好きな笑顔が、消え去ってしまうかも知れないのに。
私の大好きな彼女を失ってしまう。
私は駆けた。彼女を追って駆けた。腕を掴む。初めて彼女に触れた。厚ぼったいブレザー越しに、華奢な彼女の骨を感じた。
彼女は振り返った。驚いた顔をしていた。瞳を丸く開いて。わずかに開いた唇は淡い色をしていて、甘く煮詰められた果実のようだった。
私は告げた。私の想いを。
「あなたのこと大好きなの」
ああ、なんて醜い声だろう。涙を堪えた震えきった声で、私は彼女に愛を告げた。勝手に流れ出る雫が疎ましかった。
彼女は、私を軽蔑してしまわないだろうか。涙を拭いもせずにいる、みっともない顔で、こんな、見苦しい姿の私に、好意を押しつけられて。
やっぱり心の中だけに、しまいこんでいた方がよかった。私は取り返しのつかないことをしてしまった。
だが。
彼女は笑った。あの日のように。
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