レンブラントの門出

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 卒業式。ざわめく会場。  ギシギシとパイプ椅子の軋む音から、保護者席の世間話、同級生たちの雑談。忙しく動き回る教師たちの足音。体育館の中で塊になって、最後の最後まで私を押さえつける。  私が座っているのは、体育館前方の卒業生席のど真ん中だ。うるさい事この上ない。  何故そう皆浮き足立つのだろう。たった三年の区切りに、何故そんなにも心を動かすのだろう。長い人生のほんの一瞬。過程でしかない時間に私はどうしても価値を見出せなかった。  馬鹿らしいではないか。明日からは今日までの日常など無かったかのように、もう何年もそうしてきたかのように当たり前に、生きて行くのに。無かった事になる時間を大切に抱えていても、無駄にしかならないだろうに…………いや、無駄ではなかった。私には彼女との日々がある。そう思い至ると、私は反射的に彼女を探した。たしか私より一列前に座っているはずだ。  視界の隅に、彼女の横顔を見つけた。照明のせいで、彼女の横顔は酷くくすんで見える。  残念だと思った。彼女を見つめられる時間は残りわずかなのに、最後の彼女の顔は、私の愛した本来の美しさからは程遠い。彼女は陽に透ける肌が一番魅力的なのに。  私は彼女にどれだけ救われただろう。彼女が居たから生きてこられた。彼女の為に生きてきた。共に過ごす時がもう無いことだけが、惜しかった。
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