レンブラントの門出

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 高校の三年間は、地獄であり、また、蜜月でもあった。  地獄は、クラスメイトとの不和から始まった。  高校生活を楽しもうという意識など、入学以前からもってなかった私は、青春を謳歌しようと息巻く少女たちの中では、瞬く間に異端者となった。カササギのようにかしましい少女たちは会話という魔女狩りを行う。徒党を組んで不純物を排除しようとする狂者たちの縄から逃れるには自分も狂者になる他に術はない。多くの者はそれをやってのけた。だが私はできなかった。  私は、狂うことの出来ない歯車だったのだ。  みな私を腫れ物扱いし、どこにも属さない不満を隠そうともしなかった。私は狂者の中の狂者となった。  そして私を同じ人間としてさえ扱おうとしなかった者たちは青春だの恋愛だのという言葉に踊らされ、自分たちこそ素晴らしい人間なのだと、我が物顔で狂った信仰を振りかざした。  ことさらに男女関係は、けし粒ほどの些細なことで怒り、泣き、笑う。そうやって、揺れ動く感情に浸る己に酔う。狂少女たちが求めているのは愛されることばかりで、誰も心から他人を想いはしない。彼女たちが本当に愛しているのは、他者に慈しまれている自分自身。赤ん坊のように与えられるもの全てに口を開ける様はまさしく喜劇。騒がしく、滑稽だ。  私は、彼女たちのようになる必要など無かった。 なにも感じない人間と名前だけの契約を結ぶなど無意味だ。人一人好きになるのは、そう簡単じゃない。  また、遊びまわるのも嫌いだった。  平日は家と学校を往復するだけの日々を過ごし、家にいるときは大抵、教科書と問題集を開く。そんな過ごし方が退屈になれば、気分転換のために図書館へ行き本を読んだり、博物館や美術館を訪れたりした。静寂と知識で彩られた空間。エデンの園、私の楽園。  そこで知識を飲み込んだ瞬間。元来の私と混じり合い、一つのかたちを作り上げる。最高の快楽。  
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