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彼女は外見だけではない、むしろ内面こそ彼女の本当の美点だった。心優しく、誰にでもあの微笑みを与える人だった。また決して他を蔑んだり虐げたりしない人だった。
そんな彼女だから、私が異端者でも私へ微笑み続けてくれた。嫌悪や打算など、これっぽっちもなかった。彼女は本心から平等を愛し、非難を恐れなかった。私は、私と関わることで彼女の立場を脅かしはしないかと心配したが、それは無用なものだった。彼女のような高潔な人物を厭う者など誰ひとりとしていなかったのだ。だが、たとい私のせいで自らの立場が危うくなったとしても、彼女は私に微笑みかけることを止めはしなかっただろう。彼女はそういう人だ。
彼女は、荒涼たる大地にただ一輪根づく白百合のごとく、私に安らぎを与えた。
毎日、毎日、毎日。挨拶をし、時折当たり障りの無い話題で会話を楽しむ、振りをする。あれほど嫌っていた無意味な関わりさえも、彼女と、というだけで、悦びに変わった。
けれど、私は決して彼女と親しくなろうとはしなかった。私が望むのは、彼女にとってもっとも近しい存在になる事ではなかったから。
彼女の親友は私とは別にいたし、私の親友も別にいた。それでよかった。
知ってはならないから。
高貴なるものの深淵は、時として毒となる。知ることそれ自体が大罪なのだ。
そして彼女を知る、ということは、彼女の存在を侵犯し、凌辱するに等しい。
聖なるものを暴きたてるなど、畏れ多いことだ。許されるはずがない。
そしてなにより彼女のあの清らかさを穢してしまう。清廉さを奪ってしまえば、彼女は彼女でなくなる。
絶対に嫌だ。彼女の美が損なわれるなど考えたくもない。美しくなければ彼女じゃない。
そんな恐怖から、彼女とは三年間ずっと、たまに話をするクラスメイトでいた。
だが、すべて今日で終わってしまう。
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