君の景色と僕の音

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「明彦、どうしたの?」 向かいに座る馨が心配そうに声をかけた。 「すごく苦しそうな顔してたよ?」 「ちょっと出会った時のこと思い出してた」 「出会った時、ね......」 馨は懐かしむように俺の手に触れた。 「明彦ってさ、すーぐ怒るしぶっきらぼうだしほんと最悪な印象だったよ」 「なっ、そんなこと......」 狼狽える俺を楽しむように馨の指が踊る。 「でも、仕方ないよね。きっと不安や怖さの中だったんだと思うからね」 ふと、馨は俺の手に指を絡めて握った。 「だけど、そのおかげで今があるんじゃない?」 その仕草に俺は顔に熱が集まるのを感じた。 「まぁ僕もあんなに怒りっぽい人は嫌いなんだけどね」 「明彦がまだあの時みたいなら僕は一緒にはいられないかな?」 一緒にはいられないという言葉がズシリと心に重く響いた。 そんなことになってしまったら...... 馨のいない日々を想像したら耐えられなかった。 「そんなの......!」 嫌だ、と言おうとした俺の唇を馨は人差し指で押さえた。 かすかに笑う声が聞こえた。 「フフッ冗談だよ」 「僕は明彦が大好きだから、離れたりしないよ」 必死な俺の姿が可笑しかったようだ。 「愛してるからね、明彦」 「......俺もだよ」 ストレートな告白は少し照れくさかった。 「そういや、馨はどうして俺と付き合おうとしたんだよ?」 「その、俺たち男同士だし......」 「性別なんか重要なことじゃないよ」 馨の指が少し強く当たった。 「明彦も僕もお互いが好きだった、それだけだよ」 「それにね......」 「僕は誰かを好きになることが分からなかったからさ」
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