1 嘘は喜劇の始まり

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 自分は実は猿だったのか、と恵理子は思った。  アルバムの一ページ目に、お母さんの写っている写真が貼ってある。今よりも何歳か若く見えて、胸に赤ん坊を抱いていた。  その子供はかわいらしい服を着せられていたが、顔がやけにしわくちゃである。どう見ても子猿にしか見えない。  まさかと思って別の写真を見てみても、ベビーベッドに寝かされている姿や、お風呂に入れてもらっている姿、どれをとっても猿である。  恵理子はアルバムを閉じた。お昼ご飯を食べた後は、いつも幼稚園では昼寝をしているので、いつもお父さんとお母さんと一緒に寝ている部屋で寝そべったのだけれども、昨晩はよく眠ったので寝つけない。  そこでふと衣装ダンスの引き出しを開けてみると、ぽつんと小さなアルバムが置いてある。何気なしに開いてみると、お母さんが猿の赤ちゃんを抱いている写真を見てしまったのだった。  思い当たるふしがないでもない。恵理子の好物はバナナだし、のぼり棒も園では他の誰よりも早く上れた。  それにこないだの遠足で、モンキーパークに行った時、恵理子は猿の群れに囲まれて、危うくさらわれそうになった。  見かけは人間の服を着ていても、実は仲間だとばれたのかもしれない。  恵理子は周囲を見渡した。これを見たということは、誰にも知られてはいけないような気がしたのだ。  誰にも見られてはいけないような写真を、誰でも開けられるような引き出しに入れておくはずはないのだが、彼女はまだ小さいので分からなかった。  そのまま見なかった振りをして、元通りに戻しておこうとも思わずに、アルバムを抱えて部屋を出たのだった。
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