第五章 覚醒

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「おのれ、小賢しい真似をッ」 「娑羯羅(しやがら) が、これほどまで見事な気配飛ばしが使えるとは、やはり太元帥様の影響でしょうな」 難陀(なんだ)優鉢羅(うつはら) は、娑羯羅(しやがら)徳叉迦(とくしやか) の気配を追い、日比谷公園まで来ていた。 ところがそこに、娑羯羅(しやがら) たちの姿は無かった。難陀(なんだ) は、娑羯羅(しやがら) の気配飛ばしの術にまんまとかかったのだ。 この術を得意としている彼女にとって、これはかなり屈辱的な事だった。 「それより、和修吉(わしゆきつ)阿那婆達多(あなばだつた) の気配が消えたことが気になります」 「阿那婆達多(あなばだつた) は真明に、和修吉(わしゆきつ) はこの異界の人間に殺られたようじゃな」 難陀(なんだ) の声に仲間を失った哀しみはない。そこにあのは、己の命に背き、事態を悪化させた愚かな部下への怒りだ。 「修羅の真明、こちらの予想を超えています」 「いや、この異界に来てから強力になったのだろう、摩瑜利との接触があやつの能力を飛躍的に向上させたのじゃ」 「娑羯羅(しやがら) と同じ?」 「うむ、恐らく神と血を分けた者に共通することなのだろう」 「いかがします、八大竜王は娑羯羅(しやがら) を含めても三人」 「娑羯羅(しやがら) は太元帥の間者じゃ、我らの足を引っ張ることはあっても、力になることはありえぬ。現にこうして我らを混乱させておる」 「やはり、真明との戦いは避けるべきでしょう」 「そこまであやつを恐れる必要があるとはどうしても思えぬ」 「解りました、いざとなればこの優鉢羅(うつはら) 、一命に代えても難陀(なんだ) 様を御守り致します」 「期待しておるぞえ」  難陀(なんだ) は妖艶な笑みを浮かべると、優鉢羅(うつはら) に身を寄せ、己の唇を相手のそれに重ねた。彼女の舌は蛇のごとく優鉢羅(うつはら) の舌をからめ捕り、唾液がどっと流れ込んでだ。  難陀(なんだ) が唇を離した後も、二人を銀の糸が結んでいた。 「頼りになるのはそなただけじゃ」
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