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「おのれ、小賢しい真似をッ」
「娑羯羅 が、これほどまで見事な気配飛ばしが使えるとは、やはり太元帥様の影響でしょうな」
難陀 と優鉢羅 は、娑羯羅 と徳叉迦 の気配を追い、日比谷公園まで来ていた。
ところがそこに、娑羯羅 たちの姿は無かった。難陀 は、娑羯羅 の気配飛ばしの術にまんまとかかったのだ。
この術を得意としている彼女にとって、これはかなり屈辱的な事だった。
「それより、和修吉 と阿那婆達多 の気配が消えたことが気になります」
「阿那婆達多 は真明に、和修吉 はこの異界の人間に殺られたようじゃな」
難陀 の声に仲間を失った哀しみはない。そこにあのは、己の命に背き、事態を悪化させた愚かな部下への怒りだ。
「修羅の真明、こちらの予想を超えています」
「いや、この異界に来てから強力になったのだろう、摩瑜利との接触があやつの能力を飛躍的に向上させたのじゃ」
「娑羯羅 と同じ?」
「うむ、恐らく神と血を分けた者に共通することなのだろう」
「いかがします、八大竜王は娑羯羅 を含めても三人」
「娑羯羅 は太元帥の間者じゃ、我らの足を引っ張ることはあっても、力になることはありえぬ。現にこうして我らを混乱させておる」
「やはり、真明との戦いは避けるべきでしょう」
「そこまであやつを恐れる必要があるとはどうしても思えぬ」
「解りました、いざとなればこの優鉢羅 、一命に代えても難陀 様を御守り致します」
「期待しておるぞえ」
難陀 は妖艶な笑みを浮かべると、優鉢羅 に身を寄せ、己の唇を相手のそれに重ねた。彼女の舌は蛇のごとく優鉢羅 の舌をからめ捕り、唾液がどっと流れ込んでだ。
難陀 が唇を離した後も、二人を銀の糸が結んでいた。
「頼りになるのはそなただけじゃ」
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