第五章 覚醒

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 彩香は好沢浩之と共に、東京の人ごみにまぎれ八大竜王から逃れようとしていた。  浩之は矢だけをしまい、ボウは手に持ったまま移動していた。この人混みでアーチェリーを使うことはできないが、それでも持っているだけで気が休まるのだろう。  警察に質問されたらやっかいだが、矢は番えていないので何とかなるだろうと彩香は思っていた。 「あッ」  不意に立ちどまると、釣られて浩之も歩みを止めた。後から来た人たちがぶつかりそうになり、顔をしかめて横目でにらんで行く。 「なじょした?」 「別に……」  そう答えたものの、彩香は再び歩き出すことができなかった。  なぜなら、鳳羅須が同等以上の力を持つ鬼霊と対峙しており、さらに強力な鬼霊二人がそこへ向かっているからだ。  この三人が相手では万に一つも鳳羅須に勝ちめはない。それどころか、逃げる事すら不可能だろう。   わたしに何ができるっていうの?  そうだ、自分にできる事など何もない、ただの人間に過ぎない自分には。   違う、あなたはただの人間などではない。現にこうして、見えない場所の事を正確に把握している……  彩香はもう一つの心の声に慌てて耳をふさいだ。   わたしには何もできない、何も……  そのとき、彩香はあることに気づいた、鳳羅須のそばに自分がよく知る人間がいる。   光奈! 「神鳥、本当にだいじょうぶか? オメの顔、マッサオだぞ」 「好沢くん……」  光奈は体をはって、彩香を鳳羅須の凶刃から守ってくれた。その光奈が鬼霊たちの争いのどまん中にいる。   どうすればいいの? 「わたし、行かなきゃ……」  口が勝手に動き、体がひとりでに走り出していた。 「おい、神鳥!」
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