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彩香は好沢浩之と共に、東京の人ごみにまぎれ八大竜王から逃れようとしていた。
浩之は矢だけをしまい、ボウは手に持ったまま移動していた。この人混みでアーチェリーを使うことはできないが、それでも持っているだけで気が休まるのだろう。
警察に質問されたらやっかいだが、矢は番えていないので何とかなるだろうと彩香は思っていた。
「あッ」
不意に立ちどまると、釣られて浩之も歩みを止めた。後から来た人たちがぶつかりそうになり、顔をしかめて横目でにらんで行く。
「なじょした?」
「別に……」
そう答えたものの、彩香は再び歩き出すことができなかった。
なぜなら、鳳羅須が同等以上の力を持つ鬼霊と対峙しており、さらに強力な鬼霊二人がそこへ向かっているからだ。
この三人が相手では万に一つも鳳羅須に勝ちめはない。それどころか、逃げる事すら不可能だろう。
わたしに何ができるっていうの?
そうだ、自分にできる事など何もない、ただの人間に過ぎない自分には。
違う、あなたはただの人間などではない。現にこうして、見えない場所の事を正確に把握している……
彩香はもう一つの心の声に慌てて耳をふさいだ。
わたしには何もできない、何も……
そのとき、彩香はあることに気づいた、鳳羅須のそばに自分がよく知る人間がいる。
光奈!
「神鳥、本当にだいじょうぶか? オメの顔、マッサオだぞ」
「好沢くん……」
光奈は体をはって、彩香を鳳羅須の凶刃から守ってくれた。その光奈が鬼霊たちの争いのどまん中にいる。
どうすればいいの?
「わたし、行かなきゃ……」
口が勝手に動き、体がひとりでに走り出していた。
「おい、神鳥!」
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