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娑羯羅 の首が宙に舞うのを光奈は呆然と見ていた。
何が起こっていたのか、光奈の眼はほとんど捉えることが出来なかった。
ただ、鳳羅須の身体が突然あちこち出血し、それが娑羯羅 の仕業だということだけは理解していた。
そして、その娑羯羅 の首は放物線を描いて地面に落ちた。
ほんの一瞬の出来事だが、光奈にはその部分だけスローモーションのようにゆっくりと感じられた。
血まみれの鳳羅須が、幽鬼のように立っている。
真明くん……
声をかけようとしたが、口が強ばって動かない。
気付くと全身が震えていた。
まさに悪夢だ、出来る事なら早く覚めて欲しい。
だが、今は泣き事は言ってられない、彩香を見つけなければならないのだ。
光奈は震えを無理やり押えつけようとした。
「くそッ」
悪態が聞こえ、眼を向けると、鳳羅須が反対側の路を凝視している。
「ホホホ……我が弟だけではなく、大身、阿那婆達多 、遂には娑羯羅 まで斃すとは、流石、修羅の真明よのう」
この声を聞いた瞬間、背筋が凍るような思いがした。低く、威厳に満ち、他の者を圧倒するような響き。
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