看護師だって、人だもの!

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「白衣の天使」 そんな代名詞をつけられた職業。それが看護師だ。いつも優しい笑顔で、病気の人に元気を与える。それがこの代名詞たる所以だろう。人の命を預かるという責任重大の仕事だ。夜勤もあって生活リズムも崩れる仕事だ。肉体労働もある仕事だ。外からの人間からの評価はそう言ったものである。 「なーにが!白衣の天使だ!!」 空になったジョッキを空に掲げて大声をあげる女こそ、まさにその白衣の天使のうちの一人である。白衣の天使(オフモード)はそばにいたアルバイトの青年に「生いっちょう!」と声を荒げた。アルバイトの青年は睨まれた蛙のように一度動きを止めると、奥のキッチンに向かって、裏返った声で「生一丁入りましたー!」と逃げ帰っていった。 顔が真っ赤なその女は白衣の天使というにはあまりに悪意にまみれた顔をしているし、その真っ赤な表情は天使というよりも天狗に近い。天狗は運ばれてきたビールを一気に飲み干すと、机に穴が空きそうな勢いで叩きつけた。 「ちょっと、もう飲むのやめなよ。」 「止めるな止めるな!私はもう仕事やめるぞ!!明日こそ辞表を提出するんだわ!」 「それもう五回目じゃん。ほら、髪の毛醤油に浸かってるよ。」 天狗の隣に座る友人の方こそ、見て呉れは白衣の天使のそれだ。残念ながら彼女は看護師ではないが。今日はお互い仕事が終わってから店に直接集合の予定だったのだが、天使が来店に来た時点でもう既に天狗は天狗になっており、目の前には冷めきったフライドポテト、食べ途中の出し巻き卵の皿、串入れには10本ほどの串が収納されていた。 「ほら、またあんたの愚痴大会になるんじゃない。今日は何があったの?」 「今日は~??今日も~!!くっそが!なんだあの医者は!なんであんな高圧的なんだか!」 天狗のこの様子にはもう慣れているようで、天使はカルーアミルクに口をつけながらそう問うた。天狗は、聞かれるのを待っていましたとでも言いたげに目を見開くと、大きな目をひん剥いて天使の腕を掴んだ。
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