ここだけでてこれたよ

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自分の口から出てきた言葉は誰に聞かれる訳でもなく寂しい響きを持ってクーラーの排気の音に混じって消えた。全身の力を抜いて再度力を抜いてベッドに仰向けに寝転がる。 そして、ふとクーラーの風気口を見て、背筋が凍った。寝転がった俺を見詰める様に5センチほどの暗闇の隙間から、アニメでしか見ない大きくきらきらした目が覗いていた。 一瞬見て分かったが、それは先程聞こえてきた妹キャラのフィギアだった。顔の大きさは普通の人間程で、顔の右半分を覗かせる様に横向きで俺をみている。 『ここだけでてこれたよ』 瞬きもせずに此方を見詰めるその目のアンバランスさに息ができなくなる。 可愛らしい声で紡がれた声を聞きながら酸欠のせいか意識が遠のく。 『ここだけでてこれたよ』 『あはは』 『でてこれたよ、ここだけ』 『あはは』 『でてあははここ』 『あでてこははこれだけ』 『あはははははでははこれたはは』 先程の笑い声と混じって耳元で響く声に完全に俺の意識が遠のいたのはそれからすぐの事だった。 次に目を覚ました時にはすっかり朝日が昇った後で、声も聞こえなくなっていれば、クーラーの風気口に見えていた顔も無くなっていた。完全に冷え切った部屋の中で自分のくしゃみが響いて、取り敢えずクーラーを消す。     
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