第1章

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 OP  大学試験の勉強が長引き、気づけば夜中の一時になっていた。  アパートの窓から聞こえる音はたまに走る車ばかりで、あとは喧騒一つもない。ま、都会に来たわけじゃないしな。  時間も時間だ。  しかし、小腹が空いてきて若い体躯でこのまま寝るのは、苦しいにもほどがある。 「ファミレスに行くかぁ」  たまに味わうのは気分がいい、深夜のファミレスである。  001  最近じゃめっきり数が減ったが、うちの近くにはまだ深夜のファミレスが営業してる。個人的には夜中に小腹が空く機会は多いので大助かりである。  最寄りのファミレスは、アメリカンな鷹の絵が描かれ、俺を歓迎する。外から窓硝子を眺めただけでも、誰もいないのが分かる。少なくても目につく席には誰もいない。  真夜中。  もとから閑静な住宅街だったのが、死体のように静寂になった住宅街。街灯のあかりがぽつぽつと灯り、この季節にはありがたいひんやりとしたクーラーが点き、優しい温白色のライトも照らしている。いくつも並んだ革張りのソファー、緑ゆたかな観葉植物、奥にはキッチン、ドリンクバー。  俺は、へへへっ、と愉快な気分で店に入った。  深夜のファミレスは、自分一人のかしきりのようで気分がいいし、自宅より落ち着く。  いっそ、勉強道具を持ってきて続きをやればよかったかな。いや、さすがにそこまでの体力はないか。  俺は入り口の受付でしばらく待っていたが……しばらくしても、誰も来なかった。 「――んぅ?」  おかしいな。  念のためにもう一度外に出て入り口を確かめる。  休日なんてことはないよな。間違って、入っちゃいけないのに入ったってわけじゃない。  じゃあ、何で誰も来ない?  ――おいおい、アルバイト。イヤホンつけてゲームでもしてんのか? 「あのー、客なんですけどぉ」  それから、大分経っても誰も来ず、ちょっとスマホをいじくる余裕があるほどで、我慢しきれずキッチンに行って呼びかけるが、誰も反応せず、いっそ中に入ってやろうかと思うが、いやそれはまずいか。念のため、もう一度外に出て入り口を確かめる――すると、チラシが張ってあった。 【受付はかまいませんので、お先に席に座りお待ちください】  と書いてあった。 「え、あ、あぁ」  こんなの最初からあったかな。
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