第1章

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 いや、これがあったってことは、俺が見逃してたってことだよな。寝ぼけてたのかな。飯食ったら早く寝よ。疲れてるのかな。  俺は渋々と適当な席についた。  コの字型に席が並び、四方で唯一空いた場所がキッチンフロアとなる。ここの手前にはドリンクバーもあり、俺は毎回欠かさない。  角の席にすわり、静かな夜の風景が見える。街灯しかない、ほんと寂しげな雰囲気だ。怖いという感じはしないが、二階建ての民家ばかり、道路も二車線で狭く、歩道も狭く、そして人も車も通らないのは辺鄙なとこだなと再確認させられる。  革張りソファーを堪能し、メニューを広げ、適当にハンバーグでも食うか。バイトの金も入ったし。あと、ドリンクバー。  でも、また店員が来ない。横になるわけにもいかず、俺は退屈でまたスマホをいじくる。 「……んぅ」  尿意。  よりにもよって、というタイミングで現れる。まだ店員に会ってもいないのに。しかし、あまり耐えきれるようじゃないな。股間がバイクのエンジンをふかすように、俺を責め立てる。あーあ、分かったよ分かった。おトイレ行きますよ。 「あ、あの、トイレ行っていいですかー?」  誰もいない店内で声をあげる。  いや、誰もいないからこそ、ファミレスで声を張り上げるなんてできたのだが。しかし、流石にキッチンには人がいるだろ。なのに、返事がなかった。いや、キッチンだけじゃなく店内にもいなきゃおかしいんだけどさ。 「ん、んぅ――いいや」  我慢できん。  俺はもう一度「トイレ借りますね!」と言って、席を立った。  トイレからもどると、メモ用紙がおいてあった。【ハンバーグとドリンクバーご注文ですね】とだけ。 「……いや、こういう注文の仕方だっけ、この店」  人と人のコミュニケーションを極力省いた画期的なシステム。いや、画期的すぎる。前にもこのファミレスに来たことあるが、あのときは普通に店員が来たはずだ。注文を取りに来たはずだ。 「ていうか」  俺、ハンバーグ注文したいって言ったか?  実は聞いていた、なんてことはできない。だって、俺は注文してない。クチに出していないんだ。声に出してすらないものを、どうやって分かるというんだ。注文を受けとるというんだ。  ただ、頭の中で浮かべただけなのに。 「……か、考えすぎか」  眠気でまいってるのかな。
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