第1章

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 小さなプレートの上に乗せられたハンバーグ。プレートは木の皿に鉄板を乗っけている。鉄板の上のハンバーグはじゅうじゅうと音を鳴らし、香ばしい臭いも漂わせる。 「……っ、くぅ」  腹へった。  いや、落ち着け。こんな、おかしなハンバーグ。食うだなんて、食いたいだなんて、やばいだろ。なに入ってるか分かったもんじゃない。それなのに、俺の胃袋は悲鳴をあげて、食いたい食いたい、とわがままを言い出した。餓死寸前の動物のように、俺は食欲の虜になり、耐えきれずフォークとナイフでハンバーグを細切れにし、クチに入れる。 「――んっ」  うまい。  もう一口、もう一口、と食べていく。  クチのなかにい味が広がり、なんとも言えない味わいが。  フォークとナイフが食欲にとりつかれ、マナーの欠片もないといわんばかりにフォークで肉の塊をさしては食べてさしては食べてを繰り返す。 「うまいっ、うん、こりゃうまい」  見られてる。  ふと、俺は違和感が到来して窓の外に視線をやった。さっき見かけたサンダルのおっさんや犬の散歩をしてたおばさんもいた。このファミレスを囲むほどの大勢の人々が窓ガラスの前に立ち、俺を凝視していた。 「……は?」  冷静になると、こんな深夜にサンダルのおじさんはまだ分かる。だが、犬の散歩をするっておかしくないか。いや、こんなのは今となっちゃどうでもいいことだ。  囲まれてる。  老若男女。若いのも老いたのも、男も女も、俺を見ていた。それは怒りや悲しみを秘めてはいない。なにも感情をこめてない瞳で俺を眺めていた。コミュニケーションなんて一切できない、深海魚の大きな瞳のように、俺を見つめていた。 「……っ」  俺は、ようやく本来ならすぐに抱かなきゃいけなかったものを感じる。  恐怖。  こわかった。意味が分からない。  店員に会わないファミレス、注文も聞かずに俺が頼みたいのをいつのまにか持ってきて、しかも、こんな真夜中に犬の散歩をしてたおばさんや、それだけじゃないまだ年端もいかない子供まで外にいて、で、俺をなんの感情もこもっていない瞳で見つめている。 「や、やめてくださいよぉ。あ、あの」  聞こえるわけないか。  俺はたまらなくなり、トイレに逃げ込もうとする。  いや、やっぱやめた。
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