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トイレに一度逃げ込めば、二度ともどれない気がした。トイレから出て、またあの席にもどろうとして、そして、あの人たちの視線に、大量の視線に臨める自信がなかった。
「み、みせを」
店を出るか?
いや、入り口の方にも奴らはいるし、外に出るのはこわい。彼等はヤクザのようにいかつい迫力を持ってはいない。一人として体格のいい男や、武器を持った者はいない。
そういう恐怖ではないのだ。
違う種類の恐怖。
外に出れば彼らに殴り付けられて、それが怖いということではない。ただ、見られるだけ。それだけで、異様な怖さがあった。もしかしたら、外に出たところで彼らは見るだけしかしないのかもしれない。何故だろう。
それが、この世の何よりも恐ろしい所業のように感じた。
俺は悲鳴をあげるように「店員さん、店員さんいないんですかっ!?」と叫んだ。
しかし応答はない。またかよ。
で、俺はようやくケータイの存在に気がつく。あ、スマホで助けを呼ぼう。大学生なら、こんな時間に起きてる奴らはごまんといる。深夜麻雀してそうな奴に電話を掛ける――が「はっ」つながらない。
スマホを見ると、アンテナのマークが消えていた。このスマホは、まるで契約が解除されたかのように、電波が切れている。
「何でだよ。さっきまで、Wi--Fiなしでスマホゲームしてたじゃねーかよ……毎月金だって払ってるし……いちいち見てんじゃねーよ!」
窓ガラスの外の人たちは俺を見続ける。
スマホがつながらないなら、仕方ない。俺は店員を呼ぼう。こんなおかしな事態、一般人には無理だ。いや、ファミレスの店員だって無理だと思うが、俺はその考えをぶっとばし、キッチンに無断で侵入して、店員を呼ぼうと。
「て、店員……さん?」
――キッチン。
金属製のテーブルや調理器具が並ぶ、食材はあらかじめ業務用に小分けされ冷凍保存されたのがあるらしく、食材らしいのは目につかない。一応、調味料らしいのはいくつかあるのだが、いや、それは問題ではない。
いくら深夜だとはいえ、ファミレスに一人や二人はいてもいいものだが……店員はいなかった。
「……じゃ、じゃぁ、誰が料理を運んだんだ? つ、作ったんだ?」
アラームが鳴った。
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