始まりの物語

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   エルは、ルノと同じ部屋出身だったりと、他にも同じ研究員の元で育った子はいる。リズはそれが、少し羨ましかった。  「ねえ、シイナ。カルは、記憶がないけど、強いの?」  リズは、もう一つの気がかりを、シイナに尋ねた。自身の弱さは、後からやってくる強い子たちによって、際立っていく。同じような状況の子が来ないものか、甘い考えとは承知の上だったが、求めずにはいられなかった。  「そうですねえ。数値や訓練結果で言えば、得意分野は異なれど、リリに並ぶほどです。むしろ安定感を考慮すれは、リリ以上かもしれない。けど、記憶を失って、日が浅く、我々もカルがどのくらい動けるのか、わからないんです。戦闘は感覚ですので、戦えるとは思うのですが、何とも言えない状況ですね」    シイナの様子は真剣で、シイナ自身が困っているようでもあった。  わからない、と言われて、リズは何も言い返せず、代わりに、パンを口に放り込んだ。  隣では、エルがリズを心配そうに見ていた。リズの気持ちを一番知るのは、エルだった。大丈夫だよ、そういいたい気持ちがあるが、その言葉が何の根拠もない、無責任なものであるが故に、言葉にすることをためらった。    エルが、話を変え、リズとたわいのない話をしている前で、シイナはカルに、朝食をとらせようと、試みていた。カルの食が細いことは、シイナの悩みの一つでもある。    そんな風に食事をしながら、時間は流れていった。訓練も何もない日というのは、珍しく、皆、いつも以上にリラックスしているようでもあった。シイナはそれを横目に、目を細め、笑った。
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