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「リリも?」
「うん。そうだ、あいつところにいたときにね、なかまがいたんだ。おなじようにじっけんをうけてたこ。カルとは、せいはんたいでね、よくしゃべるこ。・・・・・・あいたいなあ」
リリの悲しそうな表情に、カルはどうにか励まそうと、言葉を探した。
「・・・・・・もしかしたら、私はその子に会っているのかもしれない。覚えていないだけで。もしかしたら、私の記憶に何か手掛かりがあるかもしれない」
「てがかり?」
「記憶がないのも、思い出すのも、全部怖かったけど、少しだけ、思い出してもいいかなって思えた。リリの、おかげで」
カルが小さく微笑むと、リリもつられて笑顔になる。
「リリは怖くない」
「え?」
カルの唐突な発言に、思わずリリは聞き返した。
カルは、今までの態度の理由をリリに話した。誰も信用できず会話をすることに恐怖を感じていたこと。唯一信じられるのはシイナだけだということ。そしてこれからは、きっと嘘をついていない、リリも信じられるということ。
「よかった。リリがいてくれて」
「いま、すっごくへんなかんじ。ひとをころしてるときとも、ごはんをたべてるときともちがう。でも、いやじゃない」
「うれしい、てこと?」
「うれしい、はごはんのときだがら、ちがうかな」
「安らぎ・・・・・・?」
「やすらぎ?」
「私は、シイナといるとき、心が安らぐ。暖かくて、穏やかで、優しくなれる」
「そう、かも。やすらいでいるんだ」
リリの腑に落ちたような言い方に、カルはまた目を細めた。
「うん。そういうこと」
「カルとなら、どんなばつでもたえられそう」
リリは立ち上がり、背伸びをするように、一歩進む。その表情はかつてないほど、穏やかなものだった。
その後、ノーマンが戻り、二人に懲罰房行きを命じた。ただでさえ質素な食事が、さらに粗悪的になり、衛生的とも言い難い牢だが、二人には穏やかな空気が流れていた。
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