エンゼルランプをあなたに

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 任務が終了し、ノーマンの部屋に帰って来たエルたちは、シャワー室へ向かう。男女別に二つずつの部屋があり、人数の多い出兵だと、大混雑となるのだが、今回出兵した人数が三人と言うことで、並ぶことなくシャワーを浴びることができた。  「なあ、ルノは人を殺すことを正義だと思うか?」   今回共に出兵し、隣でシャワーを浴びているルノに、質問する。ザーと言うシャワー音があっても、完全に扉が閉まる作りになっていない半個室のシャワー室では、少し声を張れば、会話ができた。  突然の質問に、ルノは首を傾げた。と同時にリズの顔が思い浮かぶ。  「リズのことっすか」  質問に質問で返す。ルノはエルにだけは敬語だ。図星を突かれたエルは、素直に肯定する。  「俺はさ、人を殺せないって、悪い事じゃないと思うんだよ。むしろ正しいと思う。正しいのに、ここじゃ悪者だ。それが理由で怒られたり、嫌われたり。本来悪とされるのは、俺たちの方なのに、正しいのが一人だと、それが悪になる。俺はそう思ってるんだが、ルノはどう思う」  エルの真剣さに気づいたルノは、石鹸を泡立てながら、じっと考えてみる。生まれてはぷちぷちと消え、だけど確実に数を増やしていく。そして気づけば、持ちきれなくなって、手のひらからこぼれ落ちる。  その泡は、罪悪感と同じに見えた。人を殺すたび、泡は作られる。今は、消すことができても、いつか抱えきれなくなる日が来るかもしれない。  その日は確実に近づいているのだが、ルノはまだ目をそらしていたかった。  「俺は、生まれた時から人を殺すように言われてきたから、そこに正しさを考えたことは、正直ないっすね。だってそれを悪とすると、俺らの人生真っ黒すよ。・・・・・・でも、エルさんの言ってることは、分かります。いくら正しいとされていても、立場が変われば悪になる。俺らだって、きっといつまでも正義ではいられない」  ルノは言葉を選びながらゆっくりと答える。ふと、数時間前に殺めた人間の顔が脳裏をよぎる。悲鳴を上げ、絶望と恨みのこもった眼でこちらを見ていた。改めて考えてみると自分がしていることが正義なわけがない、と自嘲したが、ここに居る限り”それ”にあらがうことはできない。  
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