Prologue

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 「こんなところで自己紹介だなんて、随分と馬鹿なことをしますねえ、この人は。レドモンドも名を出されていい迷惑でしょう。君たちよりも一回りは年上のはずなのに、君たちのほうが、よっぽど優秀ですねえ」  続けて言葉を発したのは、少年を引率している、五十代の男だ。白衣を纏い、黒い髪を中途半端に伸ばしている。敬語で話しているが、それには敬意が含まれているわけではなく、その男の素の話し方だった。  容赦のない罵倒をよそに、ノーマンの力説は続いていく。  『それでは、私の企画を発表いたします。私は、モルモット兵の集団管理を推奨します。そのプロジェクトの名前は“アグリゲーションプロジェクト”。私は、AGPと呼んでいます』  そこからさらに、ノーマンは口を動かした。  現在、プラネットで造られたモルモット兵は、各研究室にて、研究員が管理している。そして、多くの研究員は、鎖につなぎ、自由を奪っていた。その結果、言葉を話せず、意思疎通が困難で、命令に従って任務を遂行する、オートマトン状態となっていた。  この管理方法でも、メリットはあった、言葉通り、自我を持たないモルモット兵は、死を恐れず、どんな死地にも立ち向かえるという、兵器として持つべき性能を持っている。  しかし、デメリットも存在する。多くのモルモット兵は、窮地を切り抜けようとせず、死ぬまで戦い続ける。突然の作戦変更に対応できない。一度暴走したら、見方でさえも殺戮対象となった。  そのため昨今のモルモット兵の多くは、爆弾を投下するかのように敵地へ投げ入れ、命が尽きるまでの皆殺しを任務としていた。そのため、ほとんどのモルモット兵が回収できず、使い捨て状態となっているため、供給が十分に行えず、プラネットの経済が回らないという問題に繋がった。  『アグリゲーションプロジェクトは、その概念を覆します』  ノーマンは、一呼吸置くと、気を引き締め、手元にあるファイルをめくり、AGPの説明を始めた。  まず初めに、研究員から買い取ったモルモット兵を、一つの部屋に集め、集団で管理、育成すること。  重要なことは、モルモット兵の買い取り年齢を五歳から九歳あたりに絞る、ということだ。治験死亡率の高い年齢を超えるまでは、研究員の元で育て、個人を育成しやすい年齢までを対象に買い取り、育成。自我を培って行く。  それによって、意思疎通や協調性等、これまでのモルモット兵にないものを補っていく。  『勿論、行き過ぎた成長は、反抗や我儘に繋がる恐れがあります。それは、モルモット兵という自身の立場を勘違いした愚行、いわば罪です。そうならないためにも、私は独自の理論で、それらをコントロールいたします。  もし、このプロジェクトに、興味や疑問を持たれた方、どうか私のところへご一報ください。アグリゲーションプロジェクトは、プラネットの未来を変える、革新的なプロジェクトであると、私は確信しています。ご清聴、どうもありがとうございました」  ノーマンは、すべてを出し切った、と言わんばかりのすがすがしい表情で深く一礼した。額に浮かぶ汗がライトに照らされ、輝いてさえ見える。時間差で、拍手が聞こえるが、どう見ても人数分の拍手はなく、まばらだった。
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