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ここの人間は、今の環境を変えたがらない。それはおそらく惰性からだ。今の状況でも、好きな研究に没頭し、食っていける。わざわざルールや方法を変える必要性がないのだ。それは、ノーマンもよく知っていた。大きな拍手をもらうことも、手ごたえを掴むことも、初めから期待していない。
少しずつ、理解者を。頭を下げる中、心の中で繰り返し、頭を上げ、ステージを後にした。
「ねえレオ、どう思った?」
先ほどノーマンを笑った少年は、隣に座る、同じ年齢の少年、レオに声を掛けた。大きな目をぱっちりと開けた姿は、まるで子犬のようだ。
「興味ない。大して面白くなかったし、そもそも俺は研究者にはならない」
表情を変えず、淡々と返答する。
「うん、そうだね。でもさ、本当にできるのかな。成長をコントロールとか、そんな都合のいいこと」
「どうだろう。少なくとも俺は、そんなの見たことがない」
「うん、俺もだよ」
レオから目をそらし、うっすらと笑った。もしそんなことができるとしたら、まるでその人間は神様じゃないか、と心の中でノーマンを憐れむ。きっとそんなこと、あの男にできはしない。
「どうした?」
レオは、急に黙り込んだことを心配し声を掛ける。
「ううん。ただ、そうだとしたら、レオは俺の神様だ」
突然の発言に、レオは首を傾げた。何を考え、その答えに行き着いたのか、皆目見当もつかなかったが、聞いたら答えてくれる様子でもない。そっと視線をステージに戻すと、そこには次のプレゼンテーターが立っていた。ノーマンとは違い、仮面で顔を隠している。これが本当だよな、と心の中でつぶやく。
ノーマンの持つ熱に触れる日は、きっと来ないのだろう。そうレオが確信したところで、仮面の男がマイクを取った。
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