始まりの物語

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 薄暗い空間のベットの上で一人、丸まっていた。何を考えるでもなく、呼吸するだけの少年は、そのままぎゅっと目をつむった。……瞬間だった。ベットを囲むカーテンがシャンと音を鳴らしたかと思うと、眩しい光が差し込んだ。人工的な光は、丸まった少年を十分なほど照らす。  「起きろよ。くそリリ」   あからさまに声を低くし、見るからに不機嫌そうな様子で、少年に声を掛けたが、リリと呼ばれた少年は、その声には従わず、丸まったままだ。  カーテンを開けた少年の名前はルノ。ピンク色の長髪をサイドで結んでいる姿は一見少女にも見えるが、ベッドの上で丸まっているリリより少し背の高い少年だ。右目を隠すように前髪を伸ばしている。  リリは返事もせず、つまらなそうにベッドの上を転がった。  その態度にルノは顔をしかめた。  「招集がかかってる。早く来い」  必要最低限の言葉を残し、ルノはその場を立ち去った。開けっ放しのカーテンからは変わらず光が差し込んでいる。  残されたリリはゴロンと寝返りをうち、時計を見ると、もうすぐ九時を指すところだった。地下にあるこの部屋には窓がなく、時計だけでは、朝夜の区別がつかないが、今は朝の九時だ。  リリは空腹を覚え、ゆっくりと起き上がると、部屋を出てすぐ右手にある洗面台で顔を洗った。いくらか脳が覚醒したものの、倦怠感は消えなかった。  
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