始まりの物語

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   少し歩けば、すぐにメインルームへと出る。照明により明るさを保たれたメインルームは、リリたちが生活する部屋の中で、最も大きい所で、机の配置や椅子の形は、質素な会議室に近く、機械的で、暖かみに欠けていた。  「よく眠れたか?」  口角を微妙に上げ、嘲笑うのは、モルモット兵に対面するように立つ、白衣を着た三十代半ばの男、ロニー・ノーマンだ。椅子に座る子供たちの前に立つ姿は、授業を行っている教師に見えるが、笑顔の欠片もない。  その言葉に、着席していたルノや、エルといったモルモット兵は、リリのいる方へ振り向いた。  ノーマンは、リリの睡眠が常に浅いことを知っていた。にもかかわらず、不躾な質問をしてくることに、リリは腹を立てる。  「かんけいないし」  ノーマンには届かないほどの声で呟き、そっぽを向くように一番端の椅子に腰を下ろす。  ノーマンは、その態度を気にすることもなく、話を再開した。  「と言うわけで、説明は以上だ。エル、あとは任せた。私はこれで失礼するよ」  そう言い残し、ノーマンは立ち去った。どうやら、リリが来る前にノーマンの要件は終わっていたらしく、並んでいた子供たちも散り始める。  リリがふと顔を上げ、正面を向くと、ノーマンが立ち去ったところに、リリよりも背の低い少女がいた。オレンジ色の髪に天然が入ったリリの髪とは対照的に、真っ黒でうねりのないショートヘアの少女は、まだ幼さの残る顔立ちには不釣り合いなほど鋭い目つきをしていた。  「だれ」  そう言って、首をかしげると、少女の大きな目と目があった。
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