始まりの物語

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 リリがこの部屋に来て四年、今まで一度も他人に興味を持つことはなかった。しかし、今目の前にいる、少女の眼に惹きつけられた。同じ、人殺しの眼、そう感じた。  「珍しいな、お前がそんなことを聞くなんて」  遅れたことを咎めるでもなく、嫌味を言うでもない声を掛けてきたのは、エルという赤髪の少年だ。  「べつに」  座っているリリが、自然にエルと目が合うことはない。俯いて見えるリリと向き合い、先ほどノーマンから聞いたことを優しく説明していく。  「彼女はカルって言って、七歳だって言ってた」  そこまで説明すると、エルはカルのことを呼んだ。カルは頷くことも表情が変わることもなかったが、ゆっくりと近づいてくる。まるで感情のない人形のようだった。  「俺はエル。一応最年長でリーダーってなっているんだ。だから、困ったことがあったらいつでも頼ってくれ。そんでこっちはリリ。同じくらいに見えるだろうけど、十一歳。よろしくな」   きれいな笑顔で、すっと手を伸ばす。握手を求めるも、カルは手を伸ばさなかった。  「シイナはどこ」    代わりに、消えいるような、か細い声が聞こえた。  「シイナ?シイナならきっともうすぐ朝ごはんを持ってくるよ」  エルがちらっとドアの方を見るとカルはゆっくりドアに近づき座り込んだ。そのドアは先ほどノーマンが出て行ったドアで、こちらから開けることはできず、壊されないように丈夫に作られている。この部屋にいる子供たちが、”管理されている”ことを象徴するかのように、重厚で存在感があるものだった。  その大きなドアの前に座るとカルの小ささが際立った。ドアを見つめるように座るカルの後ろ姿は今にも消えてしまいそうな、不思議な儚さがあったが、リリにそれを感じとる感性はなく、すでに会話に飽き、そっぽを向いている。   「振られちゃったな」  「どうでもいいし。おなかすいた」  リリが返事をすることは、珍しかった。普段、他人に無関心で、会話すら意欲的ではないリリが、内容はさておき、返事をしてくれたことにエルは、嬉しくなった。  「リリとは対照的だな。ここに来た日の事、覚えているか?」  エルとは反対に、リリに会話を続ける気はなかったが、立ち去るにも、間もなくシイナが朝ご飯を運んでくると思うと、それは億劫だった。  無視を決め込み、シイナを待つ。考えることは、次の出兵のことだ。次はいつ戦えるのか、リリの頭は、常にそのことを考えている。  「それで、リリは一言目に、君を殺すの?って尋ねてきた」    エルは、そんなリリの様子も気にせず、四年前のことを思い出し、語っていたが、リリが机に突っ伏すと、さすがにそれ以上、話を続けようとは思わなかった。
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