始まりの物語

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 「シイナと知り合いなの?」  エルが、リリとの会話をあきらめ、視線をカルに送ると、膝を抱えるカルの隣にしゃがみ、声を掛けるリズの姿があった。金色の髪に、綺麗な碧眼をもった少女の優しく、高い声はこの空間によく響く。    カルの血の色にも似た大きな目がリズを睨んだ。七歳の少女とは思えない迫力にリズは怯む。  「カル、俺らは仲間だ。ここは癖の強いやつが多いけど、仲良くやって行こう」  エルが、リズをフォローするように、並んで声を掛けるが、カルはリズから目をそらなかった。カルの考えていることが分からず、首をかしげると、再び、カルのか細い声が聞こえた。  「仲間じゃない。お前は人を殺せない」  「え?」  リズは一瞬息が止まった。それは、リズが抱えるコンプレックスそのものだったからだ。自分の無能さと未熟さを初対面の、それも年下の女の子に言い当てられたことに動揺し、口を噤んだ。  「どうして、そう思うんだ?」  リズを庇うようにエルが訪ねると、カルは見据えるようにエルを見つめ、先ほどのか細い声とは違い、今度ははっきりとした声で言った。  「目が、違う。わたしとも、ここにいる人殺したちとも。そして“あいつらとも”」  カルの答えにエルも何と返したらいいかわからず、無言の空気が流れた。  その空気を壊すように、突如、三人の前にあるドアが開く。一斉に視線を向けると、朝食を乗せたカートを押すシイナの姿があった。待ちわびたシイナの登場に、カルは素早く抱き着いた。  「やあ、カル。久しぶりですね」  優しそうに話すのは、ここの子供たちの生活を支える還暦前後の男性で、役員には珍しく子供たちを人として扱い、接している。そのほほえましい雰囲気は祖父と孫にも見えた。  「遅い」  カルがそう呟いたのは、いつの間によじ登ったのかシイナの背中からだ。  「すみません。ノーマンの話が終わってから入ろうと思って、待っていました。いつ終わるかわからなかったので」  申し訳なさそうに言うシイナの言葉を聞いているのか、いないのかはわからないが、カルはそっと丸まった。その姿を見る限り、先ほどの目が嘘のような、”女の子の姿”だった。  「シイナ、カルを知っているの?」  リズが立ち上がりながら訪ねる。その顔はどこかうかない様子だ。シイナは背中で丸まっているカルをあやすように動きながら優しく答える。  「はい。カルが生まれた時から知っていますよ。ノーマンからカルについてどこまで聞きましたか?」  「歳以外は何も」  そうですか、と呟くと、あたりを見渡し、何かを確認した。
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