1 加速する季節(沢田 壱)

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 バスのドアが開き、年齢も性別もさまざまな人達と一緒に、大柄な男が入ってくる。  肩にかけられたスポーツバックには、宇都宮(うつのみや)の文字。  高校野球に興味がある人なら、つい、注目してしまう高校名だ。  甲子園出場の常連校。  公式戦で一勝もできない俺達と、プロのスカウトマンを唸らせるほどのプレーができる奴ら。  素人だって、その差が大きいことくらい、わかる。  なんで、宇都宮が白山(はくさん)と同じ方角にあるんだ?  悪意にしか思えねぇ。  もちろん、俺達は俺達で一生懸命、野球をしている。  引け目に感じることはない。  けど、周りが許してくれない。  二年と少し、奴らと同じバスに乗り合わせていると、他校や中学生、はてには、酒を飲んでいるだろうって感じのおっさんにまで、比べられ、からかわれる。  強豪校と弱小校が一緒のバスって、うける。  うけねえよ。  宇都宮はオーラが違うよね。  目の錯覚な、それ。  野球、教えてもらったらどうだ?  もはや、俺らのこと、全否定?  くそっ!  
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