Sequence 8

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 今回で6度目となる『ELEMENT』シリーズは、例年と同じく波乱の幕開けとなった。技術だけは一丁前に高いスタッフ達が遠慮も無く意見をぶつけ合うので、これを取りまとめるのにいつも苦労させられる。それが今回は二度もあるようだ。今からドシンと気が重い。  けれど……、ポーカーフェイスを装いながら実のところ俺はソワソワしていた。今度は何を見せてくれるのかな。どんな新しい発見があるのかな。期待に胸が躍り、年甲斐もなく浮かれてしまう。こんな感覚がまだ自分の中に残っていることに毎回驚かされる。  いくつになっても人は夢を追い掛けてしまうようだ。 ***  やる気が漲った翌日、クライアントの会議室で決め手に欠ける打ち合わせをダラダラと1時間ほど続けていたとき、スマホが着信を告げた。5回以上コール振動が続いたら急ぎの合図。腰と尻が痛くなってきた頃合いだったので、俺は発信者を見ないまま周囲に一言断りを入れて席を立った。  1階のロビーを見下ろせる広い吹き抜けの前で通話に応じると、受話口から聞こえてきたのは意外な人物の声だった。 「え。至?」  平日の明るい時間にプライベートの知人から電話がくるのは珍しい。しかも相手は滅多に連絡を取らない妹の幼馴染だ。 「瑠珂さん、どうしよう。俺……、どうしらいいか、分からなくて……」  至の声はひどく震えていて、動揺している様子が伝わってくる。 「どうした? 何があった?」  至が俺に連絡をしてくるなんて、ただ事ではない。 「美雨が……、美雨が……っ」  背筋が凍った。足元がガラガラと崩れるような喪失感に襲われる。 「美雨がどうした!?」  場所を顧みずに叫んでいた。  至は乱れた息を整え、言葉を繋ぐ。 「美雨が、警察に連れていかれた……」  頭の中が真っ白になった。
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