Sequence 9

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 打ち合わせを終えてすぐ、御茶ノ水駅から下りの中央線通勤快速に飛び乗った。帰宅ラッシュと重なって暫くは身動きが取れず、吊革を掴む位置を確保してスマホを取り出す事ができたのは四ツ谷駅で乗降が始まってからだった。  通話を切った後も、至からは次々にメッセージが届いていた。これまでの経緯を包み隠さず白状しろと命じたからだ。  打ち合わせ中も気になってつい画面を見てしまった。だから大筋は理解しているが、改めて読み返すには勇気が必要で、それとは別に苦痛と憤りを覚悟しなければならなかった。  ―――警察ってどういうことだ?  厳しく問い詰めると、至は「美雨がある女性に怪我をさせてしまったようで……」と委縮しながら答えた。  ―――女性って誰だ? 何があった?  少しの沈黙の後、至は「女性の名前は知りません。怪我は大したことないようです。美雨と揉み合いになった拍子に尻もちをついて、そのとき手首を捻ったらしく……」と話す。  揉み合いってなんだ。らしくって何だよ。ハッキリしない至の口調に苛立ちが募った。その直後、頭を鈍器で殴られるような衝撃的な言葉が耳に届いた。 「その女性は、美雨が惚れた男の彼女のようです」  新宿駅に着くと、目の前に座っていた白髪の老人が立ち上がった。立ち位置を入れ替わりシートに腰を下ろす。  実家までは乗り換えを含めて残り40分近くかかる。少しでも身体を休めるに越した事は無い。……というか身体に力が入らなかった。至からのメッセージを読み進め、状況を理解するごとに消耗が激しい。俺はかなりショックを受けていた。
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